She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第29章 変化の始まり
泣きそう、とシャワールームから出た侑士。
「男になったね、忍足君」
消毒液をかけてやろうか、と宣った彼を睨む。
「キスマークまでつけられちゃってさぁ」
キスマーク?と思い出して、慌ててタオルを首に巻く。
「典型すぎない?
首のキスマークに背中の引っかき傷なんて」
「うるさいわっ」
放っといてくれ!とシャツを掴む。
「っ痛ぅ」
繊維に背中の傷が擦れる。
「ずいぶん爪の鋭い子だったんだね」
そんなに真珠は爪が長かっただろうか?と思い返す。
「加減、分からんかっただけやろ」
「ふむふむ。加減できないような抱き方しちゃったんだね」
えっちだー、と軽く言う声に目を細めて睨む。
「趣味悪いで。人、誂って楽しみよって」
「誂いがいを提供してくる忍足君が悪いんだよ」
「責任転嫁が潔すぎるで」
膿やしないと思うが、消毒くらいはしておくべきか、と考える。
(て、背中をどないして消毒せぇ言うんや)
人には頼めん、と諦めて溜息をついた。
✜
(痛い、)
帰宅後の風呂では沁みなかったので、すっかり忘れていた背をタオルで擦ってしまい、再びヒリヒリと痛む。
髪の水分をタオルで拭き取り、洗面所にあるドライヤーとにらめっこ。
(ええわ、)
マコトにしてもらったん気持ちよかったな、とタオルを肩にかけて脱衣所を出る。
ただいまー、とアルバイトから帰宅した姉と廊下で鉢合わせる。
「風邪ひくなよー」
「んー、」
隣をすれ違う時、おやすみ、と背中を叩かれ、痛ぁ!と叫ぶ。
「え?わ、堪忍な。
そないに強かった?」
ちゃうねん、と壁に手をついて俯く侑士に、大丈夫?と聞く恵里奈。
「背中、ちょお、怪我しとって...」
「あ、知らんかった...堪忍え」
申し訳なさそうにする姉に、ええよ、と痛みが引くのを待つ。
「そないに痛むん?」
「あの、なんや掻傷 いうか、掻破痕が...」
「掻きむしったん?」
見してみ?と捲られたシャツを、大した傷ちゃうから、と戻す。
「あー...」
なるほどね、と言った姉。
「名誉の傷と思いや」
「っ、しゃあしぃわっ!」
「けど、深いのあるで。
消毒はしときや?膿んだら最悪やで」
あれだけ沁みるならそれなりに深いだろうな、と苦笑い。
「部屋おり。
姉ちゃんがしたるよ」
ママには頼めへんやろ、と恵里奈は笑った。
✜