She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第29章 変化の始まり
(やらかしたんはもうどうしようもないわ)
素直に怒られよう、とタクシーの座席に沈み込む。
とっくに集合時間を過ぎた腕時計が指す時刻に、焦っても仕方ない、と溜息。
携帯に届いたメッセージを見ると、最新着は真珠から。
-ごめんなさい-
イラストも何もない、それだけのメッセージ。
(マコトに、気使わせてもうたな)
何も悪くないのに、と、大丈夫やで、と返す。
向日や跡部、テニス部のグループメッセージにも大量にメッセージが届いていて、申し訳ない、と心の中で謝る。
高等部用の昇降口から近い門前で停めてもらう。
なんとか手持ちの小遣いで払えそうな運賃に安心して財布を出そうとすると、結構ですよ、と運転手が振り返った。
「調月さんちからの配車依頼は、月締め精算なんで」
券みたいなの貰ってませんか?と聞かれ、胸ポケットに入れられた封筒を思い出す。
中には、一枚のタクシーチケットが入っていた。
(それですぐタクシー手配してくれたんか)
真珠がどこかで自分のせいだ、と自身を責めていなければいいが、とチケットで精算して駆け足に校舎へ向かう。
すでに1限目が始まっている校舎内は静かで、1-理Gの教室の後方からこそっと入る。
「忍足君、遅刻ですか」
「すんません、寝坊しました」
教員に見つかり、屈めていた背を伸ばす。
「わかりました。
まずは、制服はきちんと着ること」
首にかけただけのネクタイを結び、ブレザーの前ボタンを留める。
「すんません」
「席について。26頁です」
「授業を中断させてしまい、申し訳ありませんでした」
決まりの謝罪に、はい、と答えた教員。
いつもは、朝練の時に部室においてくるラケットバッグを後方に立てかけ、唯一、空席の1列目後方の席に座る。
珍しいな、と隣に座る、同じ中等部からの進級生である同級生に言われ、寝坊った、と苦笑いする。
「起きられないほど『頑張った』のか?」
顔を寄せて、コソッと言う彼に、は?と手が止まる。
「隠したほうがいいぞ、隠せるなら」
「なんがや?」
ちら、と教員が背を向けてることを確認した彼が、ココ、と自身の首筋を差す。
「くっきり残ってんぞ。キ・ス・マ・ア・ク」
区切って言う彼に、嘘やん、と首筋に手を当てる。
「右手側のちょい後ろ」
ここ、と彼が示す場所に指先で触れた。
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