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She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第28章 水面下の企み



 ♫〜
二人の好きな歌謡曲が充満する部屋。

「はい、反対」
「ん」
真珠の膝に頭を乗せ、横になっていた侑士が身を反転させる。 
優しく耳に触れる指先の感触と頬に触れる太腿の温もり。
少し視線を上げれば、真剣な顔で綿棒を扱う表情に笑みが零れる。


「ゆうが一番嫌だったのはなに?」

目線を横目に見上げる。

「ゆうの大事なこと...
 結婚の事を勝手に考えられてたこと?
 付き合ってる相手がいるのに、別の子を勧められたこと?
 騙すような事されたこと?
 それを黙ってたこと?」
「...全部やんな」
「そっか」
終わり、と肩に触れた手を握る。

「いっちゃん腹立ったんは」
仰向けに寝返り、片腕で目を塞いだ侑士。

「『別れたらええ』て、暗に言われた」
握る手を擦る。

「『結婚まで考えとるわけやない』言うてしもうた俺もいかんかったんやけど...
 それならええやん、て。向こうと会うて、気持ち決まったら話せばええ、て言われて
 そないな言い方されたら、マコトん事好きな気持ちに意味が無い、言われた気がしてん」

目を塞いでいる方の手で、拳を握る。


(恵里奈のお父さん、会ったことあったかな)

記憶を巡ると、一つ、行き当たった。

(確か、塾の最終日に...)

恵里奈との出会いは、高校進学のために入った塾だった。
駅から塾までの道のりで、恵里奈が落とした塾の入館証を、真珠が拾ったことが始まりだった。

恵里奈が入った難関校コースには、その年、他に女子生徒がおらず、同じ時間帯に来る同級生の女の子は普通コースの真珠だけだった。

 ✜


塾は、真珠の家から忍足家を挟んだ立地にあり、いつも一緒に通っていた。

お互いの進学先が決まった後、父が居なくなり、弟も部活で忙しく、家にいるのがさみしい、と溢した恵里奈と春休みはよく遊んだ。

恵里奈と侑士の父に初めて会ったのは、それぞれ進学先が決まり、塾の最終日に、親が塾に来る恒例行事の時だった。

「君が『マコ』ちゃんやね」

パリッとしたスーツで、いつも恵里奈が世話になっとるね、と向けられた切れ長の目は、侑士がそのまま受け継いでいる。

「君の進学先は?」
「泉深の短期に」
そうか、と考え込んでいた顔は、侑士が考え事をしている時の表情と瓜二つだな、と今になって思う。
「短大かぁ」

そのやりとりしか記憶になかった。

 ✜
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