She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第28章 水面下の企み
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トレーニング用のスポーツウェアとジャージに着替え、制服を手に、忘れもん...無い、と脱衣所のドアを開ける。
「おかえり」
居間に戻ると、先に風呂を済ませていた真珠が、お茶飲む?と聞く。
受け取ったグラスのよく冷えたそれが胃に落ちていくのがわかるのは、風呂で温まっただけのせいではない気がした。
「ゆうの長さじゃ、ドライヤー使うでしょ?」
そこ、とコードに繋がるドライヤーを指す真珠。
「櫛、持ってる?」
「持たん」
「私のでいい?」
部屋を出る真珠に、スマン、と声を掛ける。
どうぞ、と渡されたブラシ。
受け取りかけた手を下ろし、じっと見上げる。
「なに?」
「ドライヤー、わからん」
ん?と首を傾げる真珠。
「いつも使わないの?」
「使わん」
髪長い方なのに、と胡座をかく侑士の背後に膝立ちになると、貸して、と首に掛けていたタオルで湿った髪を拭く。
「ゆう、トリートメントした?」
「してへん」
いつもしないの?とドライヤーを手にした真珠に、おん、と頷く。
「ぁ、枝毛発見」
切っていい?と言われ、別にええよ、と答える。
ちょっと待ってて、と部屋を出た真珠は、ピンク色のボトルからクリームのようなものを手に取ると、侑士に差し出す。
「いやな匂いじゃない?」
柔らかなジャスミンの香りに、真珠のいい香りの元はこれか、と気付き、嫌ちゃうよ、と答える。
ヘアトリートメントを揉み込まれた髪が暖かい風に舞い上がり始める。
内側から丁寧に毛先まで櫛を通す真珠。
「猫っ毛なの、髪質って言うよりもケアの仕方によるものかもね」
触ってみて、と言われ、項辺りの髪に指を通す。
「うおっ!全然ちゃう」
こんな変わるんや、と侑士は驚く。
「ちゃんとケアすれば、ゆうの髪、めっちゃきれいになるよ」
サラサラと頬に落ちてくる髪を耳にかけてくれる真珠を見上げる。
「自分でしきらん」
「ゆうって、意外と甘えるの上手」
もう、と笑う真珠に手を伸ばす。
少し体を捻った体勢で、首の後ろ辺りを支える手で引き寄せた。
柔らかく塞いだ唇。
そっと肩に置かれた手を取って身を返すと、ゆっくりと離れる。
下を向く真珠の額の髪を払い、口付ける。
「真珠」
軽く広げた両手を差し出す。
「怖いんやったら、抱きしめさせてや」
今はそれだけでええ、と微笑んだ。
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