She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第28章 水面下の企み
立てる?と手を引いた真珠と、乗ったことのない路線のバスに乗る。
次は、葛橋前。お降りの方は...
ここが最寄り、と真珠に手を引かれて座席から立ち上がる。
一度、青凪と来たことのある調月家。
玄関の鍵を開け、ただいま、と靴を脱いだ真珠。
「と言っても、返事はないのだけれど」
奥の部屋の暗さに、無人であることを知る。
「父と母は、京都の蔵...父の実家に行ってるの。
一応、現役で杜氏してるじぃじが、病院に運ばれちゃって」
「大丈夫なん?」
「本人、ピンピンしてたって。
たぶん、熱中症とのこと。
齢も齢だから、念の為の入院」
なのでお気兼ね無く、と居間の電気をつける。
食卓に胡座をかいて座ると、引っ掛かりのあるズボンのポケットにあった携帯に、姉から新しくメッセージが届いていた。
-パパがマコん事聞きたがってた。
「本人から聞いて」って言っといたから-
むやみに話さなかった姉に胸の中でだけ感謝を告げ、画面を消す。
「ゆう、ご飯食べた?」
キッチンのシンクで手を洗う真珠に、食うてへん、と答える。
「食べる気分?」
ゆるゆると頭を振ると、ストン、と隣に座った真珠。
「どうする?」
チラ、と時計を見た真珠に、むう、と黙り込む。
「私は構わないんだけど、明日の学校は?」
「明日、朝練も放課部活も休みやし...
ん?別ん明日、『指定日』ちゃうよな?」
「『指定日』?」
どうやったっけ?と携帯を操作する侑士。
「ん、ちゃうわ」
ならええ、と携帯をしまう。
「『基準服指定日』言うて、式典やの行事ん時は、胸んとこに校章ついたシャツやないとあかんねん」
そう言ってブレザーを脱いだ侑士が着ているのは何の刺繍もないワイシャツ。
「普段は、シャツ自由?」
「せやで。
氷帝(うち)、校則に『制服着ろ』言う文言無いんよ」
「さすが氷帝学園。
文言に示さずとも、ってことか」
「忘れた、言う時は、ストアでレンタルできんねんで」
「『ストア』?」
「購買、言うたらええんかな?
制服買うんも出来るし、新聞、文房具、薔薇とか売っとる」
「なぜ、バラっ!?」
「告白に使うらしで」
学校がそれをバックアップしてるのが驚きだよ、と、言う真珠。
「今度買うてきたるよ」
真っ赤んやつ、と侑士は眼鏡を外して、真珠の肩に額当てて目を閉じた。