She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第28章 水面下の企み
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通学鞄とラケットバッグを肩に掛け、夜道を歩く。
結婚の約束したわけちゃうんやから
婚約破棄やの面倒しぃことにはならんやろ
青春の思い出としてええ経験になるよ
父が言った言葉に、ラケットバッグのショルダーベルトを掴む手に力が入った。
制服のまま、宛ても無く歩く。
ポケットで何度も震える携帯を取り出すと、母と姉からの着信が並ぶ。
合間、父からのメッセージが入るが、見たく無くて画面を閉じた。
また届いたメッセージに画面を閉じようとしたが、真珠、の文字に手が止まる。
-部活、お疲れ様-
脳内に彼女の声で再生される。
画面を開き、その文字を眺める。
返事を打とうとして、画面を変えた。
彼女に繋がるコール音は、1回しか鳴らなかった。
-もしもし-
耳に届いたいつもの声に、少し、安堵する。
-ゆう?-
返事をしない自分に、どうしたの?と心配そうになった声。
「マコト...」
横を通り過ぎたオートバイのエンジン音にかき消されそうなほどの声に、はぁい、と返事がある。
「やっぱ、なんもない」
掠れた声に、ね、と返ってきた優しい声。
そう離れていないところから、消防車のサイレンが聞こえる。
-わがまま言っていい?-
「ええよ」
-会いたい。今、すぐ-
「けど、」
自分も会いたい。でも、時間が、と戸惑う。
-ダメ?-
会いたいよ、と言う声に、分かった、と何度も頷く。
-警察署前のバス停で-
「すまん」
謝るようなことしてないよ、と言う声は、体に籠もる熱を少し和らげてくれて、ゆっくりとバス停へ向かって歩き出した。
✜
バスの車窓から、夜の町をぼんやりと眺める。
手中の携帯には、母、父から着信が入る。
それも止んだ頃、メッセージが届いた。
マコトか?と見ると、姉からの連絡。
-帰るか帰らないかだけ教えて-
それだけのメッセージに、帰らへん、と一言だけ返した。
-了解-
短い返事に、車窓へ頭を預けて目を閉じる。
いつも真珠が乗り込んでくる警察署前で降りたのは、侑士一人だった。
ベンチに座り、ぼんやりと足元を見る。
街灯に照らされていたスニーカーに影ができ、顔を上げる。
「恵里奈が『ゆうちゃんのことお願い』って」
なにがあったの?と向かいに立つ真珠の手を引き寄せて、抱き着いた。
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