She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第28章 水面下の企み
バン、と開いたリビングの扉。
おかえり、と驚いた母の声に、ただいま、と低く答え、毎朝、父とやりとりをしているタブレットを掴む。
リビングに並ぶ二つの時計の一方は19時過ぎを差している。
いつもは、帰宅すぐに着替えてキッチンに入る侑士が、私室に持っていく鞄をその辺に置き、ドカッ、とソファに座ってタブレットを開く姿に、どうしたの?と迎えた母は聞く。
「瑛士さんに掛けるの?」
父宛にビデオチャットの依頼を飛ばしている画面。
カツカツと爪先でその淵を叩く侑士に、母は何も言わずにキッチンに入った。
-どないした?カズちゃん-
「おかん、ちゃう。俺や」
母からだと思った父は、ゆうちゃんが掛けてくるん珍しやん、と笑う。
「どういうつもりやねん」
なんのことや?と言う父に、眉間にしわを寄せる。
「テレーゼ・ロールシャッハの事や」
-ああ!会うた?
べっぴんさんやったやろ?
日本が好きらして、ゆうちゃんの事、えらい気になってとってなぁ-
父の反応に、目を細める。
「どないなつもりやねん」
-まあ、一回話してみぃや。
年上、好きやろ?-
「誰に聞いてん?」
-そら、カズちゃんとか恵里奈ちゃんとか...-
せやろなぁ、と溜息。
「それでわざわざマコトと同い歳の子にしたん?」
-ゆうちゃんの女ん子の好み、知らんからなぁ
とりあえず、年上にしとこか、と-
よくもまあ、ぬけぬけと、と目を細める。
-侑士ももう16やろ?
気が合えば、くらいでええからさ-
「なあ、それわかっとって3日間相手せないかん俺の気持ち、どうなんねん?」
真珠にどう言えば、と項垂れる。
-結婚の約束したわけちゃうんやから。
婚約破棄なのなんやの、面倒しぃことにはならんやろ。
彼女との付き合いは、青春の思い出としてええ経験になるよ-
父の言葉に、湧き上がった胸の熱。
ただいま〜!と言う姉の声に、立ち上がる。
「すまん、オトン。
今、もうなんも話しきらんわ」
-おい、侑士-
リビングに来た姉にタブレットを押し付ける。
-なんのために氷帝行かしとる思ってんのや?-
「俺はっ医者なるためだけに友達選んどらんし、マコト好きになったわけちゃう」
リビングに響いた声に、ゆうちゃん?と恵里奈が驚く。
玄関から出て行った気配に、何があったの?と恵里奈は母と父を見た。
