She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第27章 嵐の前触れ
苦しいのに、嬉しい。
泣きたいのに、口元はにやける。
ぐっちゃぐちゃの感情なのに、気分は心地よくて、ギュッ、と腕に収まる体を抱きしめる。
「ゆう?」
どうしたの?と少し戸惑うような声色と優しく背中を撫でる手に、頬に触れる滑らかな髪に頬擦りをした。
「マコト、」
「なに?」
「むっちゃ好き」
「え?あ、ありがとう...?」
一瞬止まった手がそっと背中に添えられる。
「私も」
腰の辺りで組んだ手の腕の中に収まる真珠が微笑んだ。
「ゆうが、むっちゃ好き」
ふふ、と真似て笑う。
「ねえ、やっぱり、ゆうがなにに嫉妬したのか知りたいんだけど、ダメ?」
嫉妬じゃなくて腹が立ったんだっけ?と見上げる視線から、少し視線を逸らす。
「言わなあかん?」
「『隠し事』無しでしょ?」
「ほな、『ヒミツ』や」
「ズルイっ」
あれだ、と考える真珠。
「イケズっ」
抱き寄せた距離のまま、唇を尖らせて言う目線に、ドキリ、とした。
くっ!と顔を逸らす。
「どうしたの?」
「ズルイで」
保たへん、と、腕の中から解放する。
「俺も連れて帰られようか、思ただけや」
連れて帰られる?と首を傾げる。
売り場に置いてきた付箋。
その付箋に自分が「うちに来る?」と声を掛けたのを思い出し、ああ、と気付く。
「お買い上げされたかったの?」
それはだいぶ意味が変わらないか?と、真珠を見つめる。
「マコト、俺を『お買い上げ』したいん?」
ん〜、と考え、んん?と言った真珠。
ふわ、と赤みを差した頬に、意味に気づいたんやろか?と両手を包み込むように掴む。
「そ、そんなつもりじゃっ」
「別にええよ?
『お持ち帰り』にしたらええやん」
「や、ほんとにっそういう意味じゃないのっ」
違うんだってー!と慌てる姿に、くくっ、と笑う。
「言葉に気をつけます」
「ええ心がけやね」
「すいませんでした」
「まあ、マコトに『かわれる』んやったら、別にええけど」
マコトにだけな、と向けられる視線から目を逸らす。
「やっぱりゆうは、いけず、だ」
敵いっこない、と握る手を見下ろして、むぅ、とする真珠に侑士は微笑んだ。
✜