She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第27章 嵐の前触れ
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劇場の入る建物の中で、文具のコーナーを見つける。
「文房具なんかも、最近面白いもの、多いよね」
「アホみたいに凝ったやつ、多いな」
「付箋とか、つい集めちゃうんだよね」
そう言って、真珠が手に取ったのは、黒い犬を象った付箋。
「似てるっ」
ふふっ、と笑った。
「なんかっなんだろ?
目?表情?が、ゆうっぽい」
ちょっと眠い時の顔、と、可愛らしくデフォルメされた黒の柴犬が、書き込み部分を覗き込んでいるようなイラストが付いた付箋を掲げ、侑士と見比べる。
「こないな顔、しとる?」
「眠いのと、本か映画の続きが気になるのとが葛藤してる時の顔にそっくり」
ふふ、と笑う真珠。
「買お」
連れて帰ろ、と大事そうに手のひらに納める。
「『連れて帰ろ』て、ほんまの犬かいな」
侑士の言葉に、うちに来る〜?と付箋に笑いかける真珠。
「あっ」
取り上げられた付箋を追って顔を上げる。
「なんや、腹立った」
棚に戻された付箋に伸ばした手を取られた。
「侑士犬(けん)〜」
「志◯けんみたいな呼び方、やめぇ」
「いやだったなら、ごめんなさい」
しゅん、とする真珠。
「利口そうな感じとか、ゆうに似てる感じがして。
ごめんなさい」
怒られた子どものような顔を、ん?と覗き込む侑士。
「別に、犬、言われたことが嫌なわけちゃうよ?」
「?『侑士犬』が嫌だった?」
「いや?」
んん?と首を傾げ合うと、ハッ、とした侑士が顔を背けた。
「ゆう?」
恐る恐る声を掛けると、待ちや、と手を目の前に出され、少し顔をずらしてその向こうの彼を見る。
「っくく」
「ゆう?」
笑ってる?と顔を隠す手を掴む。
「かなわんのぉ」
その向こうで優しく笑う瞳を見つめる。
「付箋一つで、こないに妬いたり笑たりすると思わんやったわ」
「え?本当に分からないのっ
どういうこと?」
ねえ?と見上げる真珠。
「わからんまんまでええよ」
「やだっ!わかりたいっ」
知らんでええよ、と真珠の手を絡め取り、隣に引き寄せる。
「ゆうって、変なところで秘密主義」
「解き明かしてみぃ」
「謎が謎を呼ぶ一方なんですけど」
「ええやん。終わり無く楽しめるで」
「推理小説は苦手なのにぃ」
「じっちゃんの名にかけて、謎の組織突き止めな」
「混ざってる、混ざってる」
どっちも漫画だし、と真珠は可笑しそうに笑った。
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