She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第3章 ファーストチャンス
封筒に入っていたのは、舞台のチケット。
それも、今週末上演のもの。
「財天座のチケットやん」
ああ、あの劇団か、と大きくはないが歴史ある上演劇団の名前を知っている侑士の反応に、真珠の表情が少し晴れた。
「あの、内容被せてきたようで本っ当に申し訳なくてっ!
実は、これ、恵里奈と行く予定だったんだけど、『急用で行けなくなっちゃった』って断られちゃって...」
「ああ、そうなん」
え?、と見た真珠は眉尻を下げて困り笑い。
「つまり、1枚、浮いちゃってて...」
さっ、とチケットの隣に紙ナプキンを置いて、左右にそっと差し出す真珠。
「映画とか舞台見るの好きって聞いた侑士くんの、よく知らない女と映画を見てくれた優しさに漬け込みますっ!」
勢いよく頭を下げた真珠に、ま、待ちぃや、と慌てる。
「受け取って、もらえないでしょうか...?」
(なんちゅうズルい表情すんねや)
しゅん、と眉尻を下げて訴える瞳に、う、と詰まる。
そこで、侑士はふと気づいた。
(まさか、な)
考えすぎだろう、と結論づけ、待ってな、と携帯のスケジュールを見る。
「あ、ちなみに12時公演分でして」
「なして敬語なん?
行けるで」
「ほんまっ!?」
ん?と見た真珠は、ハッとして口元を覆う。
「ごめんっ
恵里奈と話す時も最近多くて
なんか、一対一だと、相手の口調とか方言とか言い回しがうつっちゃうの。
ごめんね、変なクセで」
気を抜くと、つい、と言って真珠が手に取った紅茶のカップは既に空で、そっ、とソーサーに戻して、膝に手を降ろした。
「っくくっ」
あかん、と顔を背ける。
「わ、笑うなら、もういっそのこと大笑いしてっ」
「んっ、すまんて。っくく」
待ってや、と片手を真珠に差し出し、片手で口元を隠す。
「笑ってるのわかってるからっ」
隠される方が恥ずかしいっ、と本当に恥ずかしそうに顔を赤くする真珠に、無理や、と机についた腕に顔を埋める侑士。
「この際、大笑いしてよっ」
「ふっくく、待ちやっ笑わんっふふ」
「笑ってる!」
「っんっんぅ、ふっくくっ」
「笑えーっ」
腕を掴む真珠の手が小さい事とか、笑いすぎ、と言う声の心地よさに、敵わんなあ、としばらく顔を隠していた。
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