She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第26章 アナタノコエ
トイレから戻ると、さて、と侑士が予約機を操作する。
「お楽しみの時間やで」
すでに楽しんでますが?と首を傾げる。
新しく予約された曲に、忘れてた、と真珠は苦笑い。
「ダーリン、本当に歌うんだっちゃ?」
これで許してくれないかなぁ、と侑士の隣に座り、少し上目遣いに聞く。
「歌うんだっちゃ」
低い声に、ふふっ、と顔を背ける。
「わ、笑わせないでっ」
「歌えへんかったら、一曲追加、だっちゃ」
「だから笑わせないでっ」
もう!と侑士の腕を軽く叩く。
テクノっぽいイントロにリズムを取る。
♪あんまりソワソワしないで
あなたはいつでもキョロキョロ
少しの笑い声の混じる声で歌う真珠。
サビの前の「好きよ」の歌詞を繰り返した後のフレーズで黙った。
「言わへんのかいっ」
やり直しっ!と停止ボタンに伸びる侑士の手を掴む。
「つ、次はちゃんと歌うからっ」
懇願する真珠の少し可哀想に思え、仕方ない、と頷く。
最後のタイミングは、うっふん、とちゃんと歌った真珠。
「♪一番、好きよっ」
さすがに吹っ切れたのか、最後はウインクを飛ばした。
「ノリノリやん」
「そうでもしないと、恥ずかしくて歌えないのっ」
手に顔を埋める真珠に、ははっ、と笑う。
「かわええから堂々と歌とたらええやん」
「そんなふうに言ってくれるのはゆうだけですぅ」
「男と行ったことないん?」
どうなん?と手を組んだ腕を脚に置き、覗き込むように聞く。
「無いよ」
「クラスメイトとか...あ、女子校か」
そやった、と納得している侑士に、イエス、と頷く。
「私、高校から泉深だもん」
「中学は?」
「公立の共学だけど、男の子と学外で遊んだこと無い」
ふむ、と考え、うん、とひとり納得する侑士。
「どうしたの?」
「ん?なんもあらへんよ」
ニコ、と笑いかける。
(マコトの歌声、聞いたんが俺だけなら、ええか)
真珠の歌声を聞けただけで満足していたが、彼女の初めての一つが得られたことで、十分すぎるほどに満足した。
✜