She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第26章 アナタノコエ
ニコニコしている笑顔が、怖い。
「今日は俺、歌わへんから」
どーぞ、と差し出されたマイクを仕方なく受け取る。
「曲、俺が入れるで」
「そこの選択肢も無しですかっ!?」
「無いで」
無慈悲、と狭い密室で落ち込む。
「ゆうは歌、上手なんだから恥ずかしがることないのに」
すごかったよ、と、タッチパネル式予約機を操作する侑士を見る。
「なんとなしに歌うんと、発表は別もんやろ。
そんな本気で歌うことなんか、そうそうないやんけ」
「そうだけど」
なに歌えばいいの?と歌うことは嫌いではないので、仕方ない、とストローでストレートティーを吸い上げる。
「『ラムのラブソング』?」
「それは後でのお楽しみや」
「性格よくないぞっ」
「自覚はしとる」
口で勝てる気がしない、と片頬を膨らませる真珠は、変わった液晶に目線を向ける。
「あら」
持ち歌ですよ、と大好きな昭和歌謡に気を取り直す。
せっかくなんだし楽しもう!とイントロのリズムを取る。
「♪あ~、私の恋は〜
南の〜風に乗って走るわ〜」
やっぱり歌の趣味は一緒だ、と歌を楽しむ。
久しぶりのカラオケ。
大きな声で歌うことなど、気分がいい時の半身浴中の浴室くらい。
少しの恥ずかしさもあるが、大好きな音楽を歌えば、気分は上がる。
〜♪
終わった音楽に、マイクの電源を切る。
「あー!緊張したっ」
「うまいやん」
「ほんと?やった!」
久しぶりすぎて声出るか心配だった、と照れ笑ってソファに座る。
「そういえば、恵里奈もペナルティあったの?」
内緒で合唱コン見たこと、と侑士に聞くと、そりゃあな、と取り出したのはチケットのような紙。
「今日の分は、姉ちゃん持ちやから」
カラオケ店の室料無料券と20%オフクーポンに、なるほど、と納得する。
「マコトに歌わせたい曲、全部、歌てもらうで」
「え?そんなにあるの?」
「ある」
次は、と曲を探す。
「ゆうは、歌ってくれないの?」
「気が向いたらな」
「絶対、歌ってくれないやつじゃん」
「一曲くらいなら歌ったるよ」
「3曲聞いたから、私も3曲!」
「罰ゲームにならへんやん」
えー、とブーイングした真珠は、始まったイントロに液晶を見る。
「好きやろ?」
歌て?と微笑む顔に、仕方無いなぁ、と笑ってマイクを持った。
✜