She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第25章 キミノコエ
ぼんやりとしている芥川。
「なんでもいいっ歌え!」
宍戸の小声の指示に、なんでも?と考える芥川。
「ダメだ!一曲歌う前に寝落ちるっ」
うーん、と頭が下がり始めた芥川を照らすスポットライトに、どうする?どうするっ?と宍戸が慌てていると、向日が、仕方ねぇ!と侑士の手を取った。
「おいっ岳人!」
「ジロー!侑士にマイク、渡せっ」
「え、渡せばいいの?」
はい、と渡されたマイクに、嘘やろ、と頬が引き攣る。
ライト下に入る直前で手を離され、向日だけがライトの下に入り込んだ。
すう、と息を吸うと、アカペラで始まる男性ユニットの曲を歌い出す。
アカンて、と暗転の下に留まっていたら、引きずり込まれた。
[ほら!ゆーし!]
目線で訴える向日に、しゃあない、と口を開く。
一応は知っているヒット曲を、うる覚えの歌詞で歌う。
歌いだしたらそれはそれ、と吹っ切れたのか、手拍子が起こり出した中、向日はハイテンションで歌っている。
絡んでくる向日に苦笑いしながら、客席は一切見れないまま、なんとか歌い切った。
「ゆーし、途中誤魔化したろっ」
「歌詞、完璧になんか覚えへんっ」
指笛や拍手が起きるなら、悠々と登場した跡部。
「よくやった、お前ら。
最後は俺の美声に、酔いな」
ソロで歌い出した跡部に、さっさとステージを降りる宍戸と侑士。
「よかったぁ」
「自分が歌うんやったら、ハナから出ぇやっ!」
侑士の苦言に、ご尤も、と頷く宍戸。
「よくやったよ。
お前も、向日も」
ステージに残って盛り上げている向日と芥川を袖から眺める。
小さく振動したポケットの中身に、そっと画面を開く。
「ぐぁっがっ!」
倒れ込むようにしゃがみ込んだ忍足。
「オイッ忍足っ」
大丈夫か?と心配する宍戸に、もう無理や、と塞ぎ込む。
「最悪やぁ」
「どうした、あ」
侑士が持つ携帯の画面が見えた宍戸は、あーっと、と目線を彷徨わせ、侑士の肩を叩いた。
「ど、どんまい」
画面には、メッセージのやりとり。
-ゆう、かっこよかったよ!-
素敵、と笑うシマエナガのイラストの送り主は、『真珠』。
「青学の」
低い声に、え?と聞き返す。
「青学の乾のアレ、跡部に飲ませよかな」
ふっふっふっ、と低い笑い声。
「怖ぇよ。いろいろ」
宍戸の頬が、エキシビション発表時よりも引き攣った。
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