She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第25章 キミノコエ
暗闇に目が慣れてきた頃、目が疲れる、と薄暗い中で読んでいた本を閉じる。
(どこおるんかわかった方がええのか、わからん方が自分の為なんか)
けど気にはなる、と僅かに後方席を振り返る。
空き席が見当たらない観客席に、(こん中から見つけたら、自分にビビる)と思いつつ、暗闇に慣れた目線を流す。
2階にもおるな、と目線を上げた時だった。
小さく振られた手に、前に向き直って、静かに携帯を取り出す。
なにを送ろうか、と考えて、デフォルメされた驚いた表情の犬のイラストを送る。
即既読がついたのを確認して再び振り返ると、俯く姿が僅かに見えた。
(やっぱりそうや)
伊達の眼鏡を外してじっと見ていると、隣に座るのが姉だと気付く。
(恵里奈やな)
あん人は、と小さく溜息。
無音で光った画面に目線を降ろすと、ごめんなさい、と謝るシマエナガ。
-ビビったわ。
隣おるん、姉ちゃんやんな?-
-あとでご説明します-
無音で増えていくやりとり。
隣席から伝言ゲーム式で移動の指示が出された。
-『ラムのラブソング』、歌ってな-
ドキィッ!と驚いているシマエナガにフッ、と笑って携帯をブレザーの内ポケットにしまった。
✜
「『ラムのラブソング』の刑に処されるようです」
なにそれ、という恵里奈に、そっとやりとりを見せる。
バレてるっ!と言う恵里奈は特に慌てた様子ではない。
「ゆうは合唱なのに」
「これにかまけて、マコんかわええとこ見たいだけやろ」
うちもカラオケ行きたーい、と言う恵里奈に、ぜひ、返す。
「2人きりで『ラムのラブソング』は恥ずかしすぎる」
「いいじゃん、かわいこぶりなよ」
「やだよー」
無理無理、と言う真珠は、登壇した1年理Gクラスの中に侑士を見つける。
「ゆう、こう見るとやっぱり背が高い」
スタイル良い、と左右に男女で分かれて並ぶ一番端に立つ侑士に言う。
アナウンスに紹介された指揮者と伴奏者。
「1年理Gクラスの自由曲は『足跡』です。
それでは、課題曲『花は咲く』から始めてください」
ピアノについた伴奏者を確認すると、指揮者の生徒がタクトを上げる。
振られたタクトに、男声のから始まった。
「ゆうちゃんの声、わかんないなぁ」
合唱に切り替わって、目を閉じて、うーん?と首を傾げる恵里奈。
その隣で、真珠はそっと目を閉じた。
