• テキストサイズ

She is the pearl of me. @ 忍足侑士

第25章 キミノコエ


『続いて、1年文Bクラスの発表です。
 1年理Gクラスの皆さんは、準備席に移動してください』

アナウンスの声に、移動を始める生徒たちの一番最後尾で深くため息をついた侑士。
「マコトちゃんに合唱コンの事、言ったのか?」
「言うわけないやろ」
逃げたい、と足取りが重い侑士。

「なして来たんや...」
「ゆーしの姉ちゃんに誘われたのかな?」
「ん?なんで姉ちゃんが知っとんや?」
謎が深まる、と首を傾げる侑士。

先程、跡部が眼前に垂らしてきたのは、チャペル前に設置されている防犯カメラの切り取り写真。

姉とともにチャペル内に入るのは、確かに真珠だった。

「こないことになるんやったら、渋らんとはよマコトとカラオケ、行っとけばよかったわ」
「行ったことねぇんだ」
デートと言えばじゃね?と言う向日。

「マコトは、よお『行きたい』言うとったけどな」
二人っきりはちょっと、と歯切れの悪い侑士に、あー、と噛んでいたガムを吐く向日。

「さすがに二人は恥ずいか」
「そもそもああいうんは、大人数で騒ぐためのもんやろ。
 二人で行ってどないするねん」
「歌うんだよ」
そら、そやけど。と顔を顰める侑士。

「でも、これで吹っ切れんじゃん?
 『マコトの歌声も聞きたい』って連れ出せばいい」

それは確かに、と鼻歌くらいしか聞いていない真珠の歌声に興味を持つ。

「マコトだけ聞いてズルーい!って言えばいんだよ」
「それ、俺が言うてもキモチワルイだけちゃう?」
「まぁな」
「おいっ!」

否定せぇ!と言っていたら、開演ブザーが鳴って、準備席に大人しく座る。
暗転していたステージが照らされ、一つ前のクラスの発表が始まった。

僅かに後ろを振り返る。

採点者の教員。他の教員。運営担当の生徒。発表が終わったり、まだ先々の生徒たち。

その後ろの保護者などの観覧者に目を凝らす。

(わからへん)

ステージの光が暗転している座席を照らしているが、むしろ影になってしまっていて、顔はわからない。

(今更足掻いても、しゃあないわ)

無んなろ、と、他クラスの課題曲をBGMに、ブレザーに入れていた文庫をステージからの僅かな光で読み始めた。

 ✜
/ 311ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp