She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第3章 ファーストチャンス
朝。
進学し、朝練の開始時間が変わったため、駅ではなくバス停へ。
(誘っても、ええかな...?)
昨日届いた映画のチケット。
おはようさん、だけで続きがないメッセージを消し、携帯をしまう。
月末だし、忙しいかも、と悩みながら定刻のバスに乗り込む。
(どないしょうかなぁ)
習慣で通学途中に読む文庫のページどころか行さえ進まない車内で悶々と考えていると、トン、と腕が何かにぶつかった。
隣とぶつかったか、と少し体をずらすと、再び腕に感触。
なんや、と顔を向ける。
「侑士くん、」
「まっ」
ヤバい、と落としかけた文庫本で口を抑える。
そこには、不安そうに見上げてくる真珠。
無機質な文庫の生地が熱く感じた。
ねえ、と窓を指差す真珠。
「降りないの?
氷帝前だけど...」
えっ!?と外を見ると、そこは見慣れた校門前。
発車します、という運転士の言葉に、慌てる。
「っ降りますっ」
すんません、と人をかき分けて慌てて下車する。
あ、と振り返って走り出したバスを見上げると、車窓に真珠を見つけた。
小さく手を振る彼女を見送る。
「あ、お礼言えんかった」
真珠がいなければ、乗り過ごしていた。
呆然と立っていると、ポケットの携帯が震えた。
-無理しないようにね。
朝練、頑張って-
ずっと見つめていた画面には、ファイト!とポンポンを振っている小鳥とともに、新たなメッセージ。
バスが行ってしまった先を見つめて、校門をくぐる。
-さっき、おおきに。
マコトさんおらんかったら、遅刻する所やったわ-
すぐ返事が来た。
-すごく深刻そうに見えたけど...
私の気のせいかな?
相談かあるなら言ってね。恵里奈には言わないから!-
「優しいなぁ」
あなたをデートに誘ったら困らせるか考えてました、なんて言えない。
(わざわざ予定合わせて男女で出かけたら、そらデートやな)
デート、と繰り返し、立ち止まる。
片手の文庫をカバンにしまい、チケットの封筒を取り出す。
-相談、乗ってくれますのん?-
-お姉さんに聞かせてごらんなさい?-
妙にアンニュイなクラブママのようなキャラクターのイラストに、何やこれ、と笑う。
-夕方、時間もらわれへんやろか?-
しばらくして返事が来た。
-今日?大丈夫だよ-
たったそれだけで、心が軽くなる。