She is the pearl of me. @ 忍足侑士
第20章 新しい出会い
次々と飛んできては、跳ねて、転がり、時には跳ね返りもせずにコートのサービスセンターラインに並んでいくボール。
ボールがサービスラインに到達すると、次に飛んできたボールは、サービスラインに沿って並んでいく。
「なんだよあれ?」
「誰か打ってんのか?」
「ボールが吸い寄せられてるみたいだったぞ」
「あのコート、傾いてんのか?」
「呪われてんじゃねぇの?
ここ、やめとこうぜ」
黄色のラインのコートを呆然と見つめる真珠と青凪を、お化けを見るような目で見た男たちは、早足に出て行った。
「気持ち悪っ」
「あれかな?
超魔術〜みたいな?」
「ヤベェ奴じゃん」
関わらんどこ、と行って去って行った男。
青凪はラケットバッグを置くと、ボールに縁取られたコートに向かった。
「せ、セナ?」
枠を跨いで中央に向かう青凪に、真珠は声を掛けた。
ラインに並ぶボールを指先で、トン、と叩き、ひとつ手に取る。
白い合わせ目には、このコートの名前が小さく書かれている。
最後にボールが飛んできた方角を見ると、無風の中で、1本の木の枝が揺れていた。
✜
コートを出ていった男たちに、残ったボールを手に下を見下ろす。
(行けるか)
先に余ったボールの籠を草原に落とす。
ラケットを手に、木の2m程から飛び降りた。
「あいてっ」
チクッ、と痛みが走った左手に切り傷が出来ていた。
喧嘩して殴られるよりええか、と木の根元に置いていた通学鞄から救急用品を入れているケースを取り出す。
個包装の消毒綿で傷跡を拭くと、すぐに血は止まった。
「かわいい子だったのに」
「さすがに不思議ちゃんは無理ぃ」
「あのボール、なんだったんだろうな」
「そりゃ、マジック〜とか?」
歩いてきた男たちは、侑士に目向きもしない。
念の為、指の傷に絆創膏を貼り、自分の荷物とボールの籠を持つ。
対峙して面倒なことになれば、退学にもなりかねないので、最善策だったと思いたい。
気になることは何も解消されちゃいないが。
「Es ist keine Magie. es ist ein Fluch.」
男たちに背を向けて歩き出した侑士の言葉は、風に舞うだけだった。
マジックやない 呪いや
✜