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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第6章 甚爾という男


 死ぬはずがなかった。

 天内理子を殺し、報復に来た五条悟を殺す。

 それだけだった。

 いつもと同じように狩りをして、金を受け取り、何もかも捨てて生きていく。

 その繰り返しが、これからも続くはずだった。

 だが——

(……クソが)

 血の味がする。

 視界が霞む。

 何がどうなったのか、頭が働かない。

 ただ、理解したのは、「これは終わりだ」 ということだけだった。

 思ったより、あっけない。

 あまりに、突然すぎる終わり。

(……まあ、こんなもんか)

 特に悔しくもなかった。

 自分の人生が長く続くものだと思ったことなんて、一度もない。

 死ぬときは、こんなふうに適当な場所で、適当に終わるんだろうと、昔から決まっていた気がする。

 だが、たったひとつだけ、胸をかすめたものがあった。

(……恵)

 アイツは、どうなる?

 甚爾は、まだ四歳の子供の顔を思い出そうとする。

 だが、同時に紫苑の声がした。

「私は、正しい母親を知らないもの」

「俺もだ」

 笑いながら言ったはずなのに、なぜか、そのやりとりが耳に残って離れない。

(……あのとき、あんなことを言うべきじゃなかったか)

 考えても仕方ないことを、甚爾は考えた。

 紫苑に、恵を託そうとしたわけじゃない。

 本気で頼むつもりなんてなかった。

 ただ、なんとなく口をついて出た言葉。

「もし俺に何かあったら——」

 そのときは、適当な冗談のつもりだった。

 死ぬなんて、微塵も思っていなかった。

 なのに、彼の命の終わりはすぐそばに迫っている。

(……冗談でも言うべきじゃなかったな)
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