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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第6章 甚爾という男



 自分らしくなかった。

 それだけが、妙に引っかかった。

 紫苑は、連絡が途絶えたことを「また気まぐれに消えただけ」だと思うだろうか。

(……どうせ、すぐに諦めるだろ)

 紫苑は「大人の女」だ。

 そうやって生きてきた。

 甚爾のような男にいつまでも振り回されているほど、甘くはない。

 繋ぎとめるための策が実行されることはもうない。

 あの女は、甚爾の連絡を待ちながらも少しずつ整理する。

 思い出に変えていく。

 そして、ときどき思い出して懐かしむだけ。

 それでも、もし、ほんの少しだけでも情が残っていたら、

(あのときの言葉を、思い出すだろうか?)

 紫苑は「何言ってんのよ」と鼻で笑うだろうか。

 それとも「本当に縁起でもなかったわね」と呆れるだろうか。

 どうでもいい。

 どっちでもいい。

 ただ、ひとつだけ、今になって思った。

(——紫苑なら、何か違う答えをくれたかもしれねぇな)

 くだらない想像だ。

 アイツと夫婦なんて、そんなの考えられねえ。

 でも、もし。

 もし、あのとき紫苑が恵を引き取ると即答していたら。

 紫苑に恵を託す選択肢を思い浮かべていたら。

 それは、少しはマシな人生だったんだろうか。

(……何考えてんだ、俺は)

 どうせ、紫苑には伝わらない。

 彼女は、甚爾がどこで死んだのかも知ることはない。

 誰が殺したのかも、何のために死んだのかも。

 ただ、ある日ふと気づく。

「あの男、消えたな」

 それだけだ。

 それだけのはずなのに——。

(……まったく、俺らしい終わりだな)

甚爾の意識は、静かに闇へ沈んでいった。

ありもしない情景に思いをはせるのだ。

まるで、儚い胡蝶の夢 のように。
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