第6章 甚爾という男
その夜、甚爾は紫苑の部屋で煙草をくゆらせていた。
紫苑はグラスを片手に、じっと甚爾を見ている。
「お前、もっと俺に頼らなきゃダメだろ」
言葉を選ぶ必要はない。
すでに紫苑は、甚爾に「頼られている」と思っている。
その意識を、もう少し強くすればいい。
紫苑は苦笑する。
「どっちが頼ってるのよ」
「さあな」
甚爾は笑いながら、煙を吐き出す。
紫苑の指がグラスをなぞる。
(さあ、どうする)
ここで紫苑が「でも、あなたにばっかり頼られるのもね」と距離を取る可能性はゼロではない。
だが、紫苑は違った。
少し考えたあと、ゆっくりと呟く。
「……でも、頼られてるのは、悪くないかも」
(ほらな)
甚爾は、薄く笑う。
「だろ?」
そう言いながら、紫苑の頬に触れる。
微かに指先が震えた。
紫苑は目を閉じる。
甚爾は、その仕草を確認してから、静かに手を離した。
(もう少しだな)
金を引くこと自体は、この段階では終わっている。
今、重要なのは「紫苑に依存させること」。
次の段階に進めるためには、「ただのヒモ」ではなく、「紫苑がどうしても手放せない男」になる必要があった。