第6章 甚爾という男
金を引くことに、もう手間はかからなかった。
最初は「貸してくれ」と言葉にする必要があった。
今は違う。
紫苑のほうから「これで足りる?」と聞いてくる。
(ここまで来れば、もう終わったも同然だ)
——紫苑が、「自分の意思で金を出している」と思い込んでいる。
そうなれば、甚爾が何もしなくても、紫苑は勝手に金を出す。
「貢ぐ」とは違う。
「彼を支えている」と思わせることが重要だった。
紫苑にとって、「自分だけが彼にしてあげられること」という認識になれば、それは「自分の役割」になる。
そして人間は、自分の役割を手放したくない。