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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第6章 甚爾という男


紫苑には連絡しない。

ただ、それだけだ。

何かを考えるわけでもない。

「どうしてるかな」と思うこともない。

甚爾にとって紫苑は、「どれくらいなら待てる女なのか」 を見極める段階にある。

この段階で紫苑が冷めるなら、それはそれでいい。

所詮その程度の相手だったということだ。

だが、「気になってしまう女」 なら、黙っていてもまた引き寄せられる。

——甚爾が動く必要はない。

数日後、甚爾はバーのカウンターにいた。

いつも通り、酒はほとんど減っていない。

指でグラスを回しながら、周囲のざわめきを適当に流す。

「禪院さん、今日は珍しく一人?」

隣に座った女が、笑いながら話しかけてくる。

甚爾は適当に視線を向けた。

「まあな」

「珍しいわね、あなたって誰かといるイメージだったけど」

甚爾は笑わなかった。

「そうか」

女は少しつまらなそうに笑い、グラスを傾ける。

こういう会話も、すべて背景音にすぎない。

甚爾がこの数日、頭の片隅で計算していたのはただ一つ——「紫苑は、もう俺を切ったか?」

何日経っても、紫苑からの連絡はない。

未読のまま放置されたLINEを、彼女がどう処理するのか。

もう諦めて消したか。

それとも、まだ消せずに残しているか。

(……そろそろだな)

適度に「終わった感」を作り、「もういいか」と思わせかけるギリギリのタイミング。

紫苑が、「このまま終わるんだろうな」と思いかけた頃——

甚爾はスマホを取り出し、深夜2時に短く打つ。

「起きてる?」

それだけ。

このメッセージを見たとき、紫苑がどう思うかはわかりきっている。

「なんで今さら?」

「何が目的?」

そうやって考えさせることが、重要だった。

もし紫苑が完全に冷めていれば、このメッセージは無視されるだろう。

だが、もし紫苑が「一瞬でも思い出した」なら——

(かかったな)

紫苑は、答えを出す。

そして、それが「自分の意思で選んだもの」だと思い込む。

甚爾は、スマホの画面を眺めながら、薄く笑った。
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