第6章 甚爾という男
(さあ、どうする)
甚爾は無造作にソファに腰を下ろし、スマホの画面を見つめた。
——1分。
——3分。
(……もう少し)
——5分。
『うん』
たった、それだけの返信。
(かかったな)
紫苑は、迷った。
それこそが、甚爾の欲しかった反応だった。
即レスなら、まだ紫苑の中で「甚爾は客になる可能性のある男」という考えが残っている。
つまり営業モードだ。
だが、少し考えてから返した時点で、紫苑はもう「甚爾をある程度オフモードの自分の領域に受け入れている」。
この数分の間に、紫苑は何度も考えたはずだ。
「今さら何?」
「無視すべき?」
「でも、気になる……」
甚爾が次に目指すことは、ただ一つ。
紫苑に「もう考えなくていい」と思わせること。
だから、返信が来た瞬間に紫苑に考える隙を与えず、次の行動を強制する。
——電話を、かける。
『……もしもし?』
「おう」
紫苑の呼吸が、わずかに揺れた。
『何?』
「ちょっと話したい」
紫苑はまた、考える。甚爾は、それをわかっていて待つ。
(——さあ、次の選択肢だ)
『……今?』
「そっち行っていいか?」
これが、最後の一押しだった。紫苑は、また沈黙する。
ここで「いや、ダメ」と言うこともできる。
だが、そう言うためには、「なぜダメなのか」という理由が必要になる。
そして、紫苑はその理由を持っていない。
甚爾は、それをわかっている。