第1章 出会い
まるでずっとそこにいたかのような気怠げな佇まい。
「待たせた?」
「いや」
紫苑が声をかけると、甚爾はタバコの煙をゆっくり吐き出し、ポケットからスマホを取り出した。
「……お前さ、既読つけねぇよな」
「え?」
唐突な言葉に紫苑は眉をひそめた。
「LINE」
「ああ……別に、必要ないなら開かないだけ」
客とのやり取りは基本的に営業用だ。見ても意味のないものは流す。甚爾の未読無視に気を揉むこともなかったが、自分もそれなりに冷たい対応をすることがある。
「お前のやつ、送ったときずっと未読だった」
「……営業のやつ?」
「それもあるし、さっきの位置情報も」
紫苑はスマホを取り出し、確認する。
確かに、甚爾からのメッセージは通知が来ていたのに、返事をしていなかった。
「……ごめん、すぐに検索かけちゃったから」
「ふーん」
甚爾は興味なさそうに鼻を鳴らし、タバコを地面に落として靴で消した。
「まぁいいや。行くか」
彼はそう言って、先に行けと顎で示す。紫苑は少し間を置いて、行きつけのバーへ向かうため歩き出した。