• テキストサイズ

【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第6章 甚爾という男


 紫苑は肩をすくめるが、その目はまだ探るような色をしていた。

(もう少しだな)

「気分で連絡するにしては、ずいぶんと時間が空いたわね」

 紫苑がウイスキーを口に含みながら、何気なく言う。

 甚爾はグラスの中で氷を回す。

(聞いてくるか)

「……そうか?」

「ええ。だって、連絡くるまで、もう忘れられたんだと思ってたもの」

 甚爾は紫苑の顔を横目で見る。

 紫苑の心は、もう半分こちらに傾いていた。

(忘れるわけねぇだろ)

 紫苑を、甚爾は「狩れる獲物」として認識している。

 手をかけた獲物を放置することはない。

 ただ、「適度な間を空けることで、紫苑に考えさせる時間を与えていただけ」だった。

 甚爾がどこで何をしていたのか、紫苑は知らない。

 「今さら何の用?」と思っても、紫苑には確かめる術がない。

 そして、答えを与えなければ、紫苑は勝手に考え続ける。

「お前も、俺のこと忘れてたんじゃねぇの?」

 甚爾がそう言うと、紫苑は微笑んだ。

「さあ、どうかしら」

(まだ閉じてんな)

 紫苑はそう言いながら、ウイスキーを持ち上げる。

 甚爾は、それ以上何も言わなかった。

 沈黙を埋めるように、ジャズが流れる。

 煙草を取り出し、火をつける。

「でも、また気分が変わったら、何も言わずに消えるんでしょ?」

 紫苑がそう言った。

 甚爾は煙を吐き出しながら、短く答えた。

「さあな」

 紫苑は、少しだけ目を細める。

 まるで「本当にそう?」と確かめるように。

(本当にそうだよ)

 甚爾はグラスを持ち上げ、飲み物を口に含んだ。

 紫苑の目が揺れる。

「いつまでこうしてるのかしらね」

 問いは、煙のように消えていった。

 甚爾は曖昧に笑う。

「さあな」

 何も答えないほうが、答えになることもある。

 紫苑がカウンターに肘をつき、グラスの中の氷を揺らす。

 グラスの縁に光が反射し、静かな音が響く。

 甚爾はその様子を、ぼんやりと見ていた。
/ 76ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp