第6章 甚爾という男
閉店時間。
「タクシー、呼びます?」
甚爾は答えず、ズボンのポケットからタバコを取り出した。
ライターを探すのも面倒で、紫苑の顔を見やる。
すると、彼女はすぐにライターを差し出した。
(……な?)
気が利く女だ。
こういうタイプは、「自分が頼られること」に弱い。
少しずつ「俺が必要なんじゃないか」と思わせれば、あとは勝手に金を出す。
火をつけながら、甚爾は紫苑をじっと見た。
「お前、LINEやってるだろ?」
「……あら、聞いてくれるのね」
紫苑は軽く笑いながら、スマホを取り出す。
甚爾はQRコードを読み取ると、面倒くさそうに「送っとくわ」と言った。
まあ、関係ない。
「次はいつ来てくれるの?」
「さあな」
甚爾は曖昧に笑い、煙を吐き出した。
(そう思わせておくのが、一番効果的なんだよ)
この女が、どこまで貢ぐのか。
どれだけ「理解のある女」を続けられるのか。
それを試すのが、ここからの段階だ。