第6章 甚爾という男
「紫苑さん、場内いただいてます」
「……え?」
ボーイの声が聞こえる。
甚爾は無表情のまま、グラスを揺らす。
(驚くことかよ)
「何となく」
そう言って場内指名をしたが、それが本音でないことは、自分が一番よく分かっていた。
こういう女は、一度でも「選ばれた」と思うと、その後のコントロールがしやすくなる。
「嬉しいわ」
紫苑は営業スマイルを浮かべるが、その奥にはまだ警戒がある。
(……まあ、すぐに解かれるさ)
紫苑がどこまで「物分かりのいい女」でいられるのか。
試すのは、これからだ。