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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第6章 甚爾という男


 グラスの中で氷がカラリと音を立てる。

 重厚なシャンデリア、甘ったるい香水、金の匂い——どこにでもある夜の店。

 甚爾は酒を口に運びながら、適当に視線を流した。

(くだらねえ)

 こういう場所に遊びに来る趣味はない。

 ただ、金を持った奴らの「使い方」を観察するのは嫌いじゃなかった。

 ここにいる女たちは、すべて金でできている。

 そして、男たちもまた、金で優越感を買い、承認欲求を満たしている。

 甚爾にとって、この場にいる意味はただ一つ——「どうやって金を引き出すか」 それだけだ。

「紫苑です。少しの間ですが、ご一緒させていただきますね」

 声のする方に目を向けると、落ち着いた色のドレスをまとった女が席についた。

 香水の香りが僅かに広がる。

 甚爾は、名刺を受け取るふりをして、それを適当にテーブルに置いた。

「ああ」

 最初から、ホステス相手に愛想を振りまくつもりはない。

 こういう店の女は、所詮、金を落とす男にしか価値を見いださない。

 そのはずなのに、紫苑は、甚爾を前にしても、特に媚びる素振りを見せなかった。

(……へえ)

 わざと距離を保ち、無理に話を盛り上げようともしない。

 営業トークはするが、「簡単には落ちない女」を演じているのが分かる。

(まあ、こういう売り方のほうが、カモは食いつくよな)

 軽く値踏みする。

 金を持っていて、簡単には靡かず、それでも最終的には「自分の価値を認めてくれる男」に弱い。

 紫苑のタイプは、だいたいそんなところだろう。

 会話をしながら、甚爾は思った。

(こいつは、転がせるな)

 ——どうやって落とす?
 ——どこまで金を引っ張れる?

 その計算を始めた瞬間、紫苑は「狩る対象」になった。

「じゃあ、私はこのへんで」

 紫苑が席を立つ。

 甚爾はグラスを傾けながら、テーブルの名刺に目を落とす。

(……まあ、試してみるか)

 指先で名刺を摘み、財布に押し込む。

 ボーイを呼んだ。

「今のやつ、指名にしてくれ」

 その瞬間、紫苑と目が合う。

(……気づいたか?)

 紫苑の目には「この男は何を考えている?」という疑問が滲んでいた。

 甚爾は薄く笑い、また酒を飲んだ。
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