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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第5章 短編


「……何よ、それ」

「そのまんまの意味だろ」

「ふうん」

 紫苑は、グラスの縁を指でなぞる。

 今の一言をどう処理するか迷っているのがわかる。

 「嬉しい」とは言わない。

 「そんなことない」とも言わない。

 だが、拒絶はしない。

 否定される前提で生きてきたやつは、こういう言葉を真正面から受け止めることに慣れていない。

 だが、そのくせ、一度言われると頭の片隅に残る。

 気にしないふりをしながら、ずっと考える。

(やっぱ効果あんじゃねぇか)

 甚爾は苦笑を噛み殺しながら、タバコを灰皿に押し付けた。

 紫苑は、煙を吐きながら「珍しいわね」と小さく呟く。

「何が」

「あなたがそういうこと言うの」

「別に」

 適当に流しながらも、甚爾は紫苑の反応を観察する。

 言葉にはしないが、紫苑の頬にはうっすらと熱が残っているようだった。

 甚爾は、唇の端をゆるく歪めた。

(愛情に飢えてるくせに、警戒して受け止めきれねぇ)

 甚爾は、タバコの煙をゆるく吐き出しながら、隣の紫苑を横目で見た。

 「お前、意外と可愛い顔してんのな」と言った瞬間、紫苑の瞳がわずかに揺れた。

 だが、彼女はすぐに「何よ、それ」と笑い飛ばす。

 心のどこかで喜んでいるくせに、そのまま受け止めることはしない。

 「どうせ嘘でしょ」

 「適当に言ってるだけでしょ」

 ——そうやって、自分で自分の価値を落とすような反応をする。

 まるで、期待して傷つくことを恐れているみたいに。

(馬鹿じゃねぇのか)

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