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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第4章 彼が去った後


 一週間が過ぎた頃、紫苑は次第に苛立ちを募らせていた。

(なんなのよ、いきなり)

 これまでも適当な男だった。

 約束をすっぽかすことも、一方的に連絡を絶つこともあった。

 でも、完全に無視することはなかった。

 何日か経てば、ふらりと現れて「悪いな」と適当な言葉を投げてくるのが常だった。

 それなのに、今回は違う。

 音沙汰がまったくない。

 仕事の合間、無意識にスマホを手に取る回数が増えた。

 通知はない。

 未読のままの画面を見つめ、舌打ちをする。

 酒の量が増え、タバコの本数も伸びていた。

 自分がこんなに執着するなんて、バカみたいだと思う。

 それでも、気になって仕方がなかった。

 バーのカウンターで、紫苑はグラスを傾ける。

 少し酔いが回った頭で、ふと口を開いた。

「ねえ、最近、甚爾見た?」

 バーテンダーは手を止め、少し考えてから首を振る。

「いや……しばらく見てないな」

「……そう」

 紫苑はグラスを握る手に力を込めた。

 胸の奥に広がる、説明のつかない不快感。

 何かが引っかかる。まさか——。

(まさか、本当に……)

 そこで、ふと頭をよぎる言葉。

 ——「どこかで野垂れ死んだんじゃない?」

 すぐに鼻で笑う。

(そうよ、きっとそう)

 紫苑はグラスを口元に運び、わざと軽く笑ってみせた。

 酔いに任せて、わざとらしく考える。

(アイツは、ろくでもない生き方してたもの)

(どこかで野垂れ死んだか、もしくは、どこかの女に刺されたか)

 どちらも不思議ではない。

 甚爾なら、どちらの結末もあり得る。

 危なっかしい橋を渡り続ける男だった。

「……それなら、しょうがないわね」

 そう言い聞かせる。紫苑はグラスを置き、深く息を吐いた。

 まるで、自分を納得させるかのように。

 でも、本当にそう? 

 なら、どうしてこんなに落ち着かないの? 

 なら、どうしてこんなにムカつくの? 

 未読のままのスマホの画面が、やけに重く感じられた。

 頭の中ではわかっていた。

 でも、認めたくなかった。

 ……私はきっと、捨てられたのだと。
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