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【呪術廻戦・甚爾夢】胡蝶の夢【完結】

第1章 出会い


 紫苑は一本取り出し、そのまま彼の唇に押し当てた。

 甚爾は特に気にする様子もなく、火をつける。

 ゆっくりと煙を吐き出したあと、ふと紫苑を見た。

「お前、ホステスのくせに、あんまり甘えたりしねぇのな」

「そういうキャラじゃないもの」

「なるほど」

 甚爾はタバコを指に挟んだまま、少し身を乗り出した。紫苑は目を細める。

「なに」

「いや」

「何よ」

「……別に、顔、見てただけだろ」

 間近で見つめられると、肌がじんわりと熱を持つのを感じる。

 紫苑は少し間を置いて、ゆっくりと口を開いた。

「……もう少し、ちゃんと口説けば?」

「は?」

「そのほうが、スマートでしょ」

 甚爾は笑った。

「俺が?」

「ええ」

「何で?」

 紫苑は肩をすくめる。

「だって、こんなの、雰囲気に流されてるだけじゃない」

「そうか?」

「そうよ」

 紫苑はグラスを取り、氷を回した。

「……普通、こういうときって、もっとそれっぽい言葉とか、あるんじゃない?」

「たとえば?」

「『お前のそういうとこが可愛い』とか、『俺のものになればいいのに』とか」

 甚爾は少し考え、それから首を傾げた。

「そんなん、言わねぇよ」

「つまんないわね」

 紫苑はそう言いながらも、少しだけ笑っていた。

「でも、わかってきた。そういうところがあなたらしいのかもね」

「……で、お前はどうすんの?」

「何が?」

「嫌なら、どかせば?」

 また、同じ言葉。

 紫苑は黙ったまま、甚爾の指がまだ自分の髪を弄んでいるのを感じていた。

 拒む理由なんて、いくらでもあるはずだった。

 だけど、紫苑は何も言わなかった。

「……そんなこと、わざわざ言う?」

「何が?」

「そんなの、自分で考えればわかるでしょ」

 甚爾は少し笑った。

「何か問題あるか?」

「別に」

 甚爾は髪を指先で遊ばせながら、紫苑の顔をじっと見ている。

 それが妙に落ち着かなくて、紫苑はわざとらしくため息をついた。

「……そんなに見る?」

「見るだろ」

「なんで?」

「お前が、どこで諦めるか見てる」
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