第1章 私の恋 夏油傑 (出会い編)
夏油先輩の制服のボタンを私は見つめた。
こうでもしないと平常心を保てなかった。
がたんがたんと揺れる電車の中で、私はバランスを崩さないよう足に力を入れた。
「…ごめん。」
「え?何がですか?」
近くで謝られて、私は見上げた。
「…っ!」
思ってた500倍近くで私は固まってしまった。
「いや、急行にのったから…あと20分はこのままだ。きついよね。」
私の顔の横に夏油先輩は右手を置いて壁のようになってくれている。
だから、私自身は押しつぶされるとかそんなことはなかった。
「ぬいぐるみ…全部持ちます。先輩が庇ってくれてるから…」
私が夏油先輩の持っていたぬいぐるみを受け取ると、夏油先輩は左手も私の背中の扉に手を置いたから、本当に閉じ込められたみたいになってしまった。
「先輩の方が、キツそうです。ありがとうございます。」
顔を見ることが出来なくて、私はまた視線を夏油先輩の胸に戻した。
ガタンっと揺れ、私は咄嗟に倒れないよう夏油先輩のお腹あたりの服を掴んでしまった。
「あっ…ご、ごめんなさいっ。」
「いいよ。転ばないよう持ってな。」
「………ありがとう、ございます。」
私は、少しだけ手を伸ばし、夏油先輩の上着の裾を指先で静かに握った。
たまにガタガタとゆれ、その度に夏油先輩は私を押しつぶさないようずっと壁になってくれていた。
ーー…近い。
胸に頬が当たりそうだ。
当たらないようにしてくれているけど、たまに大きく揺れると頬に当たり、その度心臓が止まりそうだった。
「……やばいな。」
独り言のような、とても小さなつぶやきが聞こえてきた。
私はチラッと上を見た。
夏油先輩はこちらを見てはいなかったけれど、首元が赤くて、耳も少し赤くなっていた。
「……。」
私も赤くなっているだろうか。
私は夏油先輩の裾をきゅっと掴みなおした。