第1章 私の恋 夏油傑 (出会い編)
五条先輩と硝子先輩を乗せた電車が行ってしまって、私は電車と夏油先輩を交互に見た。
「いっちゃいましたよ?」
「うん。」
私はぬいぐるみを拾い、抱え直した。
私から目を逸らし、すこし挙動不審な夏油先輩に私は首を傾げた。
「夏油先輩?」
「二人でのんびり帰ろっか。」
「え?…はい。」
駅のホームで、横並びで電車を待った。
夏油先輩は何も言わない。
「…えっと、今日の任務はどんなのだったんですか?」
無言が気まずくて、私は話題を振った。
「一級二体だった。とにかく大きかった。まぁ…デカいだけって感じだったかな。」
大したことなかったようで、そんなに特徴もなかったのか、あまり記憶にもないようだった。
「取り込んだから今度見せてあげるよ。」
私を見下ろし笑う夏油先輩は、夕日に照らされてすごく儚く見えた。
今度は私が夏油先輩を見れなくなって、視線を自分のスニーカーに移した。
ーー…緊張する。
いつも一緒のはずなのに…。
さっき掴まれた手首がなんだか変な感覚でソワソワする。
「電車きた。乗ろっか。」
「はいっ。」
電車は人が結構いたけど、満員ってわけでもなく、私たちはドアの近くに立った。
「ぬいぐるみ、一個持つよ。」
「ありがとうございます、じゃあくまさんを。」
くまさんを渡し、私は吊り革に手を伸ばした。
「高専まで意外と遠いよね。」
「はい。でも、こうやって都内で遊べるのは嬉しいです。」
次の駅に止まり、急に人がどっと乗り込んできた。
「わっ。」
「しまった、これ急行だったんだな。さん、こっち。」
ぐっと引っ張られ私はドアを背中に立たされた。
どんどん乗り込んでくる人にぎゅうぎゅうと押し込まれる私たち。
「夕方の下りはすごいな。」
「そ、…そうですねっ」
目の前には夏油先輩の胸。…とくまちゃん。
「大丈夫?」
「……っ!」
耳のすぐそこで声が聞こえて私は頭がパンクしそうだった。