第1章 私の恋 夏油傑 (出会い編)
猫とクマのぬいぐるみを抱えて、高専に帰る途中、私は夏油先輩を見上げた。
「お金、また今度返しますね。来週、任務のお金入るんです。」
「え?いいよ。あれは私がお金入れたんだから。」
カバンについているクマのキーホルダーが揺れた。
「でも…その後のジュースとか、クレープとかも全部…。」
「さんにはたまにご飯作ってもらってるから気にしないで。」
「材料費はちゃんともらってますよ?」
休みの日に五条先輩には、やれオムライス作れ、カレー(甘口)作れと言われ、作らされては先輩二人に振舞っていた。
その度にちゃんと材料費は渡されているのだ。
「でも、手間はかかるじゃないか。」
「…それはそうですけど。」
「いいから、そのくらい奢らせてよ。」
夏油先輩に言われ、私はしぶしぶ頷いた。
「じゃあ、次のお休みの日は、夏油先輩の好きな食べ物作りますね。夏油先輩は何が好きですか?」
「私の好きな食べ物?なにかな…」
「たくさん作ります。」
「うーん。そば…かな。」
「お蕎麦?」
「うん。薬味たっぷりの。」
「お任せください!ザル?鴨南蛮とかの温かいの?」
「ざる蕎麦が好きだな。」
「ふふ。」
私が笑うと、夏油先輩がすこし照れたように、おかしいかなと聞いてきたので私は慌てて首を振った。
「違います!いつも五条先輩のばっかりでお子様の好きな料理作ってたんですけど、こうやって夏油先輩の好きなものしれて嬉しかったんです。」
私はそう言って前を歩く、五条先輩と硝子先輩を見た。
二人は電車に乗って私たちを手招いている。
「おーい、乗り遅れるぞー!」
「あ!はーい!夏油先輩、早く行きましょ!」
振り返ると、夏油先輩が私の手首を掴んで引き留めた。
「わっ…!」
持っていたぬいぐるみを二つとも落としてしまい、私は夏油先輩を見上げた。
「…先輩?」
駅員の笛の音と共に電車が閉まってしまった。