第1章 私の恋 夏油傑 (出会い編)
夏油先輩が私の後ろで手元を見ていた。
「うちの母親、料理が苦手なんで、私が作ってたんです。今頃食べてるか心配。」
笑いながらそう言うと、夏油先輩もそれは心配だねと、笑ってくれた。
「はい、味見してください。」
ふーふーと冷ました唐揚げを半分に切って差し出した。
「……あ、ありがとう。」
あーんと、口を開けた夏油先輩に唐揚げを入れると、目をぱちくりとさせた。
「ん?少し辛い?」
「柚子胡椒すこし入ってる唐揚げもあります。醤油味と柚子胡椒味見。辛すぎました?」
「いや、早くご飯と食べたいな。」
よかったと、私はどんどん唐揚げをあげていった。
「あー、腹減った。」
部屋の真ん中に置いてある小さなテーブルにすでに座っている五条先輩。
「五条先輩は、自分の箸とか二人分持ってきてください。私の部屋ないですよ!」
「えー。ねぇのかよ。」
4月入学の私の部屋にあるわけがない。
めんどくせ。とか言いながらも素直に部屋から出ていった。
「これは?」
「これは先日作り置きしておいた、カブの白だし煮です。」
唐揚げだけだと多分足りない。
保存容器のものをレンジに入れ、私は唐揚げを盛り付けていった。
「手際いいね。できたやつ運んでいい?」
「お願いします。」
バタバタと足音が聞こえてくる。
五条先輩だろう。
「はい、箸と茶碗!もうこの部屋置いといて!食堂から勝手にもらってしたぜ!」
「置いとくって…」
「またたかりにくるから。」
「…もう。」
先輩たちの姿にため息をつきつつも、実は満更でもない。
誰かのために作るのは別に苦じゃないし、母や昔の友人たちに美味しい美味しいと食べてもらったことを思い出していた。