第4章 私の恋 高専夏油
しばらく五条先輩と手合わせの稽古をつけてもらい、そのあとは私は廊下で顔を洗っていた。
明日は二級への昇給試験だ。
「お疲れ様。」
タオルで顔を拭いていたら、廊下の奥から夏油先輩がにこやかに手を上げてきた。
「先輩っ。」
私は縛っていた髪の毛を解きながら夏油先輩に駆け寄った。
「明日、私じゃなくてごめんね。」
「いえ!推薦してくれただけで嬉しいです!それがないとそもそも昇給できませんから。」
「試験は悟に頼んだよ。その方がも気楽にできるだろう?」
「はい。夏油先輩が頼んでくれたんですね。」
その心遣いに私は胸が熱くなった。
気にかけてくれてることが嬉しかった。
「…は悟の方が良いと思ってね。」
「………え?」
目を合わせずぽつりという夏油先輩に私は小さく声を上げた。
“悟のほうがいい?”
そんなふうに思ったことは一度もない。
というか、比べようと思ったことがない。
「…先輩?」
「2人で部屋で浴衣を選んだり、今も2人で楽しそうだったから。」
「……っ。」
浴衣を五条先輩に着せてもらってた時、私は声を出さなかったのに、夏油先輩にはわかっていたようだ。
でも…別にそれは2人で何かしていたわけじゃない。
「悟はまだまだ人として成長途中かもしれないけど、良いやつだよ。おすすめする。」
「…せ、先輩っ!」
私は五条先輩のことは何も思っていない。
面白いし、気楽に話せる先輩だとは思う。
術師として尊敬だってする。
「私は…!先輩の横を歩くことを……想像して浴衣の色を決めました……」
勢いよく話し出したのはいいが、途中から恥ずかしくなって最後の方はぼそぼそとしか言えなかった。
「え?」
五条先輩に、夏油先輩の浴衣の色を聞いて、それで決めた浴衣だ。
五条先輩に相談はしたけれど、それは全部夏油先輩のことがあるからだ……。
夏油先輩の横を歩きたいから…。
でもそれを言うと、告白してるようなものだ。
私は何も言えず、赤くなった顔を見られたくなくてその場から走って逃げ出してしまった。