第4章 私の恋 高専夏油
「イカ焼き、こっちって言ってたっけ?」
「舞台の向こう側っぽい言い方してましたよね。」
真ん中で盆踊りをしている自治会の人達を避けるように回り込む。
「今日、たこ焼き食べようかと思ったけど、やめたよ。」
「え?なんでですか?」
「だってが作る方が美味しそうだったから。」
「……。」
私は横を歩く先輩を見上げた。
にこにこしてて、楽しそうだ。
「作るの得意なんでしょ?」
「クルクルって回すのめちゃくちゃ早いですよ。」
「はちまき買わなきゃ。」
「はっぴも着なきゃ。みんなでたこ焼きパーティーしたいですね。」
それは楽しそうだね。って言いながら、私たちは混雑する人の中を歩いた。
「あ、すみませんっ。」
どんっと男性が肩にぶつかり、私は持っていた巾着を落としてしまった。
「こちらこそ。」
私が慌てて巾着を拾うと、夏油先輩が心配して私の腕を掴んでくれた。
「平気?」
「はい。」
腕を離した瞬間、先輩の指先が私の指が触れた。
すぐに離れた私たちは、何も言えずまたゆっくり歩き出した。
「……。」
一瞬交差する視線。
私はすぐに目を離すと、下を見てゆっくりと歩く。
ーーー…手を繋ぐのかと思った。
一瞬だけ触れた夏油先輩の指先の感覚が手に残ってる。
ドキドキする胸。
熱い指先。
(今先輩は何を考えてるんだろう…)
「今日の浴衣ーー…」
「え?」
「悟からだろ?」
「はい。」
「綺麗だね。よく似合ってる。」
「……あ、ありがとうございます。夏油先輩もっ」
私は夏油先輩の浴衣姿を上から下までじっと見た。
「すっごく大人っぽくてカッコいいですっ!」
「ありがとう。」
そう言ってふわっと笑う夏油先輩の顔を私は直視できることができなかった。