第4章 私の恋 高専夏油
浮くことのできる呪霊を私も契約しているが、戦う時以外に呼び出したことがない。
「こんなことしようって思ったことなかったです!すごーーい!」
空を飛んでいる。
夏油先輩の背中に手を添え、私は下を見下ろした。
そろそろ日が暮れて、街にぽつぽつ灯りがつき始めたころだ。
「きれー」
「上は急に風が強くなる時あるから気をつけて。」
「はいっ。」
気をつけろと言われても、つるつるふわふわの呪霊の背中は掴めるところがない。
私は目の前の大きな背中を見つめた。
ーーー…夏油先輩。本当に広い背中だ。
ごーごーと鳴る風の音と、なびく夏油先輩の前髪。
「五条先輩と一緒の時は、どうしてたんですか?」
「え?なに?風が強くて!」
「なんでもないです!」
五条先輩、結構距離感バグってる時あるから、気にせず夏油先輩の肩を組んでいたんだろう。
私は落ちないように、夏油先輩の背中の服を指先で摘んだ。
こんな指先だけなんかじゃ、突風が来た時自分を支えられるとは思えないけれど、夏油先輩のお腹に手を回すなんてこと、私にはできない。
「さん、前においで。」
「…へっ?」
急に夏油先輩が振り向いて、私の腰に手が回ったと思ったら、くるっと浮かされ、あっという間に夏油先輩の前に座らされた。
「うん。こっちの方が安全だし、声も聞こえる。」
「……っ!」
どっどっどっ!
と、心臓が驚きと緊張で高鳴っていた。
私は真っ赤になった顔を見られないよう、前を見た。
背中には夏油先輩の胸があたっている。
「血液をカプセルにする…か、色々難しそうだね。」
緊張で何も言えずにいた私に夏油先輩が切り出した。
私は後ろの夏油先輩を振り返った。
「はい。でも、戦ってる最中に自分の血を出して飲ませるよりは、簡単かなって。」
「確かに。固めた血でもいいのか、血の液をカプセルの詰まるのか、硝子に色々相談してみるといい。」
「はい。」