第2章 もう一人
「ちょっと待って下さい……」
俺はサーバーを見直してみる。
……。
誰かいる。
よくよく見るとこのワールドはシングル用ではなく、マルチ用だったのだ。俺は別画面でメッセージアプリを開いてみた。
そのアプリ内の通話チャンネルに、俺のワールドにいつの間にか(それとも元々いたのか?)入っていた人物が待機していた。
俺は通話を繋げた。
「ウエノ氏?」
と俺が呼び掛けたのは、実況配信の裏方で非常にお世話になっている「ウエノ」氏。エンジニアでもある。
「ハハハッ、驚きましたか」
通話に応じたウエノ氏はなぜか楽しそうだった。
通話はそのまま配信に垂れ流しているが、チャット欄の湧きようといったら。配信者の俺より人気とかどうなってるんだよ、俺の視聴者。
「どういうことです? 俺、配信繋げっぱなしなんですけど」
「ああ、大丈夫ですよ」俺の質問にウエノ氏の口調は軽かった。「サプライズドッキリです。前にたいたいさん、クリーパーに鈴をつけてって言ってましたよね」
「え? そんなこと言ったっけ」
と言いながら俺はゲーム画面に目を戻した。そこには、緑のパーカーにフードを被った可愛い女の子がウロウロしている。クリーパー……言われて見れば、緑のパーカーはクリーパー柄にも見えた。
「今からたいたいさんには、鈴をつけたクリーパーの女の子とエンドラ討伐してもらいます!」とウエノ氏は話し続ける。「このクリーパー、鈴をつけているので敵に見つかりやすくなりますが絶大な攻撃力があるので、彼女を活かしつつエンドラ討伐をして下さい!」
「え……いや、そんないきなり言われても……」
「では頑張って下さい! それでは、ご武運を〜!」
一方的に通話を切られ、俺は一人取り残される。
……確かに、ウエノ氏に「エンドラRTA用の構成を作ったのでぜひ使って下さい」と言われたのは怪しかったといえば怪しかった。なんで俺、気づかなかったんだ。
そんな俺の心境とは真逆に、チャット欄は大賑わいだ。たいたいの特殊エンドラ討伐が見れる! ワクワク! 楽しみ〜! などなど。
まぁやりますか。今日は暇だったしな。
「サムネ変えてきますっ」
そうして俺は特殊エンドラ討伐『鈴つきクリーパーとエンドラ討伐』を始めたのである。