第1章 出会い
「そう言われましても、働かないと生きていけないじゃないですか」
「それはそうなのだが…」
まったくもって腑に落ちないという表情の壬氏様に、さらにはとてつもなく困っている様子の高順さん。なんで?
もしかして私が学生で働いた経験がないから、ちゃんと仕事が務まるか心配なのだろうか。
いや、高校生の意味もわかっていないはずだし、それはないかな。
それとも頼りないオーラが全開に漏れ出てしまっているのだろうか。うん、それはあるかも。
「確かに働くのは初めてですが、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ!なんとかなりますって!」
何の根拠もないけれどやけに自信満々な私に向かって、壬氏様が額に手を当て大きくため息を吐いた。その動きで、顔の左右に分けられた前髪もさらりと揺れる。
「そういうことを言っているのではない」
「じゃあどういうことなんでしょうか?」
私の問いに顔を上げた壬氏様とふいに目が合った。
綺麗な瞳に見つめられ、心臓がドキドキと音を立てる。
壬氏様の右手がゆっくりとこちらに差し出され、私の頬に触れた。
親指が頬をなぞる感触に、ぴくりと肩が揺れる。
「…お前は自分の容姿がいかに優れているか、わかっているのか?」
「…………………は?」
目いっぱいためて出た言葉はそれだけだった。
いやいやいや、容姿が優れているだなんて、お世辞にも言われたことないですよ。
というか、そんなことその顔で言われたって何の説得力もないですからね。むしろそっくりそのままお返ししますよ!
「俺は自分でわかっている」
わかってるんだ!
まあでもそれだけお美しければそうなるかもしれないですけど。
私の反応で察したのか、壬氏様は先ほどよりもさらに深く大きなため息を落とした。
「やはり自覚していなかったか…」
「これは厄介ですね」
高順さんが本当に困惑した表情で私を見るものだから、理由もよくわからないのにとんでもなく申し訳ない気持ちになってしまう。
どうしたものかと3人で押し黙っていると、横から朗らかな声が降ってきた。
「そんなにご心配なら、ここで働いてもらったらいいんじゃないかしら?」
3人の視線が勢いよく水蓮さんに向けられた。