第2章 侍女の日常
壬氏様に壁ドンをされた状態のまま、私たちはずっとにらみ合いを続けていた。
「わがまま言わないでください。制服姿を見られたら困るのは壬氏様もでしょう」
どこの誰か出自もわからないような怪しい女を侍女にしているなんて話が広まったら、きっと立場が悪くなるに違いない。
こっちの世界のことはまだまだよくわからないけれど、その身なりや振る舞いから見て、壬氏様はかなり身分の高い人だということは簡単に想像ができる。
私の言葉に少しだけその綺麗な眉を歪めた壬氏様は、それでも引き下がろうとはしなかった。
「大丈夫だ」
いやいやダメですってば。なんでそんなに頑なに自信満々なんですか。
私の言葉ではどうにもなりそうもなかったので、これは高順さんにでも説得してもらおうと諦めたその時。
「お…お二人とも、なにをしているのですか」
若干の焦りを含んだ高順さんの声が聞こえて、2人そろって部屋の入り口へと目を向けた。
「じ、壬氏様…、に一体なにを…」
高順さんはその表情にも焦りを浮かべている。
なんでだろうかと思っていたら、どうやらあらぬ誤解を受けているようだ。
確かに、男女が密着して見つめ合っていれば、そういうことをしているように見えてしまうかもしれない。
私たちは見つめ合っていたわけではなく、にらみ合っていたのだけれど。
「高順さん、違うんですよ。これは…」
今までの経緯を説明して壬氏様を諭してもらおうと高順さんへ足を踏み出した途端、後ろへと引っ張られるような感覚に襲われる。
何事かと振り返ると、腰から伸びた帯が窓の金具に引っかかっていた。
自分で着付けをしたため、恐らくしっかりと結べていなかったのだろう。
金具を外そうと手を伸ばす間もなく、その結び目ははらりとあっけなく解け、重力に逆らうことなく床へぽとりと落ちていった。
当然ながら着物ははだけ、下を向くと身体の前面が露になっていた。
恥ずかしさで顔に熱が集まるのがわかる。
一拍おいて、ようやく両腕ではだけた着物を手繰り寄せたものの、壬氏様と高順さんには見られてしまっているだろう。
ちらりと上目遣いで様子を窺うと、二人とも真っ赤な顔をして固まっていた。
ちょっと待って。見られた私よりも恐らくだけど顔が赤いのはどういうことなんですか。