第1章 出会い
「何者かと言われても…」
どこにでもいるようなただの高校生です、としか答えられない。高校生って伝わるのかな?
「こーこーせー…?」
壬氏様はそう呟くと、顎に手を当てて首を傾げた。
やはり通じなかったか。
そんなに不審な目を向けられても、そうとしか言えないんですから仕方ないじゃないですか。
「異国から来たのですか?」
「そういえば見慣れない格好をしていたな」
高順さんの言葉に壬氏様がそう続けた。
ここに来たときどんな服を着ていたかなんて全然覚えていないけれど、見慣れないなんて言われるようなそんな変な格好はしていないはずだ。少なくとも現代の日本では。
「異国というか、違う時代というか。…違う世界というか」
頭を過ぎっていた嫌な予感を口にすると、壬氏様たちはこれでもかと目を丸くして驚いているようだった。驚いているというか、言っている意味が理解できていないというか。
私だってもちろん半信半疑だけれど。
この状況を見たら誰だってそう考えると思う。
見覚えのない場所に、見慣れない建物。
多分日本じゃないというのに、お互い言葉が通じているという不思議。
生まれ育った場所とは全く違う土地に唐突に現れたという、いるはずのない存在の私。
もうさ、これだけ条件が揃っていたら認めざるを得ないよね。
「本当にそんなことがあるのか…?」
私の突拍子もない発言に、壬氏様は再度首を傾げた。
眉を顰めてもなお超絶美人だなんてずるい。
壬氏様も高順さんもかなり疑っている様子だ。
仕方ない。いきなりこんなことを言われても、信じてくれっていう方が無理な話だ。
だけど、私が100%嘘をついているとも思っていないようだった。
「もしその話が本当だとしたら、この世界に家などは…」
「ないです」
「ご家族は…」
「いないです」
私と高順さんのやりとりを見ていた壬氏様の顔色が、なぜかみるみる青ざめていく。
「つまり、頼れる人間は一人もいないという事か…?」
「そうなりますね」
いやに冷静でいられたのは、心のどこかで夢だと思っていたからだろうか。
「これからどうするの?」
水蓮さんが心配そうな顔で聞いてくる。
「とりあえずどこかで働いて…」
そう言った瞬間、壬氏様と高順さんが目を見開いた。
「絶対にダメだ!!」
壬氏様、なんでそんなに必死なんですか。
