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侍女の日常

第1章 出会い


翡翠宮に着くと、すでに何人かの宦官が集まってきていた。
その中心に、件の女がうつ伏せで倒れているのが見える。

「なんだ?あれは…」

遠目から見ていただけで高順の言っていた意味が理解できた。
確かにあれは妃でも侍女でも下女でもない。

その女は、今までに見たこともないような身なりで横たわっていた。

周りの宦官はその女の不可思議な装束を訝しんでか、手を触れることもなくただただ様子を伺っているだけだった。

ここからでは生きているのか死んでいるのかすら判別がつかない。

投げ出された両手を見る限り、武器のようなものを所持している様子はない。
女の傍らまで近づくと、ようやく背中が小さく上下しているのが確認できた。
どうやら生きてはいるらしい。

近くでその姿を観察するが、やはり見たことのない衣類を纏っていた。どこか別の国から来たのだろうか。
それにしても何故翡翠宮に?

疑問が絶え間なく浮かんできて、その場で考え込んでしまう。

その時だった。
女の右手がぴくりと動いたかと思ったら、「うう…」と呻き声のようなものをあげた。

俺と高順以外のものは一斉に後退り、息を殺して女の挙動に怯えている。
まったく、気の小さいやつらだな。

「大丈夫ですか?」

膝を付いた高順が、女の肩に手を回しゆっくりと抱き起こした。
息はしているものの、意識はないらしい。
長い黒髪が顔にかかっていて表情が読み取れない。

ケガでもしているのではないかと、邪魔な髪を払ってその顔を2人で覗き込んだ。

キラキラキラと眩いばかりの光に包まれた、…気がした。

「これは…」

ゴクリと、高順が喉を鳴らすのがわかった。

月夜に照らされたその女の容貌は、恐ろしいほどに美しかった。
艶やかに光る黒髪、頬に影を落とすほどに長い睫毛、透き通るほどのキメの細やかな肌。
スッとキレイな弧を描く鼻筋に、桜色の唇はほんのりと潤んでいる。

今ある言葉ではとてもではないが言い表せないその美貌に、俺も思わず息を呑んだ。

「この方は壬氏様と同じ人種のようですね」

なんだそれはと言いかけて、だがいやに納得してしまった。

「これは俺たち以外のものには見られない方がいいな」

「…ですね」

高順は頷いて女を抱き上げると、一挙手一投足にいちいちビクついている宦官たちに見られぬよう、そそくさとその場を後にした。
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