第1章 出会い
その知らせは、あまりにも突然に訪れた。
朝からいつものように仕事をこなし、特に大きな騒ぎもなく平穏無事に1日が終わろうとしていた。
夕餉を済ませ、疲れと汚れを落とすため風呂に入ろうかと腰を上げたときだった。
バタバタバタと煩い足音が耳に響く。
こんな宵のうちに慌ててここにやってくるなんて、十中八九問題ごとに決まっている。
ああ、とてつもなく嫌な予感がする。
眉間にシワを寄せ足音のする先を睨んでいると、扉を開けた高順と目が合った。実にわかりやすくその顔には焦りを滲ませている。
「壬氏様…」
「なにがあった」
今夜の湯浴みは諦めるかと軽くため息を吐きそう問えば、高順からは思いもよらない言葉が発せられた。
「翡翠宮の庭に女が倒れているとの報告が」
「翡翠宮に女?侍女か…?まさか妃の誰かが…!?」
慌てて翡翠宮へ向かおうとする俺の腕を掴むと、高順はゆっくりと首を左右に振った。
「それが、妃でも侍女でも下女でもないのです」
「下女でも…?なぜそんなことがわかる」
後宮には数え切れないほどの下女がいる。そのすべての顔を高順が把握しているとは到底思えない。
そう言い切れる根拠がなにかあるということだろう。
「ご覧になればわかります」
意味深げに呟く高順に疑義の念を抱きながらも、部屋を後にするその背中を追い翡翠宮へと向かった。