第2章 侍女の日常
壬氏様の部屋。ベッドの上。密着した身体。
お互いの心臓の音が聞こえそうな距離感に、私の頭は爆発寸前だった。
「じ…、壬氏様…!」
とにかく一刻も早く離れてもらおうともがくも、そんなことお構いなしに壬氏様の腕の力は強くなる。
逃がさないとでも言いたげに、きつく背中を抱き込んでくる。
当然密着度はさらに増し、壬氏様の胸に埋もれる形の私はすでに息も絶え絶えだった。
背中に回されていた左腕が徐々に下へと移動していくと、必然的に制服のスカートから伸びている太ももに触れる。
思いもよらず訪れた素肌の感触に、壬氏様の左手はそれが何かを確認するかのように何度も上下した。
くすぐったくて身を捩るとそこで私の着ている服に気がついたのか、壬氏様はちらりと足元へ目線を向けた。
「そんな格好をして、誘っているのか?」
実に嬉しそうに笑う壬氏様の瞳がやけにトロンとしていることに、その時になってようやく気が付いた。
もしかしてこの人、寝惚けているのでは…?
そんな私の疑問は見事的中していたようで、抱き枕のように私を抱えたまま、壬氏様は再び安らかな寝息をたて始めた。
その顔はこれでもかというくらいにやけている。
相変わらずの綺麗な顔だけど、ちょっと気持ち悪い。
「って、寝ないでくださいってば!!」
私は水蓮さんに命じられた任務を遂行しにここにきているのだ。
寝惚けた壬氏様と戯れに来たわけではない。
腹の底からありったけの声を絞り出し、出せるだけの力を両腕に集結させて、なんとか上半身だけだが持ち上げることに成功した。腕立て伏せをしているような体勢だ。
傍から見たら、私が壬氏様を押し倒しているようにも見えなくもない。
私の大声でようやく目を覚ましたのか、壬氏様は目を丸くしてこちらを見上げている。
「……?」
自身の寝室に私がいたことに驚きを隠せないようで、その透き通るような瞳は幾分か動揺しているようにも見えた。
壬氏様は一度ごくりと息を飲み込むと、「まさか…」と言葉を口にした。
「夜伽にきたのか…?」
ほんのりと頬を染める壬氏様を殴りたくなったのは内緒にしておこう。