第2章 侍女の日常
部屋の中は窓から差し込む朝日のおかげで思っていたより明るかった。ベッドのそばの窓は簾で覆われていて、寝ている人物には陽の光が届いていないようだった。
しんと静まり返った部屋の中を一歩一歩進んでいく。
ベッドサイドまで近づくと、掛け布団からこの部屋の主の頭頂部だけが出ているのが確認できた。
「壬氏様、朝ですよ。起きてください」
近くで声をかけても無反応。
どれだけ目覚めが悪いんですか。
「壬氏様ー、起きてくださーい」
声を大きくして優しく身体を揺すってみる。
そこでようやく「うん…」と声をあげて身動ぎした。
これで起きるかなと思ってしばらく様子を見ていたけれど、すぐにまた規則的な寝息が聞こえてくる。
ちょっと水蓮さん、この人全然起きないんですけど。
心の中で水蓮さんに愚痴りながら、仕方がないと掛け布団を握りしめた。こうなったら強硬手段だ。
「朝ですよー!!」
一際大きな声でそう叫び、掛け布団を勢いよく剥ぎ取った。
さすがの壬氏様もこれには気づいてくれたらしく、ようやくむくりと身体を起こした。
寝起きで不機嫌なためか少しだけ眉間にシワを寄せたその顔からは、妙な色気がやたらと放たれていた。
開いた襟元からは鍛えられた胸元が露わになり、乱れた御髪が艶っぽさを倍増させている。
こ、これは…!見てはいけないものを見てしまった気がする…!
寝起き壬氏様の強烈な色香に惑わされながらも、仕事を全うしなければという理性をなんとか奮い立たせる。
「じ、壬氏様。とりあえず着物を…」
着てもらわなければ目のやり場に困ってしまう。周りに着物がないか探していたところ、ふいに右腕を引っ張られた。
何事かと顔を上げたときには、すでにベッドの中。
なぜか壬氏様に抱きしめられていた。
「え…?ええ…!!??」
どういう状況ですかこれ!?!?!?
混乱する頭で取り急ぎここから脱出を試みようと身動ぎするが、壬氏様の力が強くてどうにも動けない。
もがきながら上を見ると、こちらを見つめる壬氏様と視線が交わった。
「か…」
ああ、ようやく目を覚ましてくれた…!
これで離してもらえるとそう思ったのも束の間、壬氏様はにこりと柔らかく微笑むと抱きしめる腕にさらに力を込めた。