第2章 侍女の日常
侍女というのは、身分の高い人の身の回りのお世話をする人のことを言うらしい。家政婦みたいなものだろうか。
水蓮さんは壬氏様が小さい頃からずっとお世話をしているそうで。
なるほど、だからあの歳になっても昔の名残で坊ちゃんと呼んでいるのかと納得した。
今日から私も壬氏様の侍女の仲間入りだ。
とりあえず元の世界に帰れるまで、どれくらいの期間かはまったくわからないけれどここでお世話になる身だ。
しっかりとお仕事をこなさなくては!
「おはようございます、水蓮さん」
「おはよう。あら、その格好…」
気合を入れて早起きしたもののなかなか服が着られず、キッチンまで辿り着いたときにはすでに水蓮さんが朝ごはん作りの真っ最中だった。
しかも結局こちらの服は1人では着られなくて、部屋に置いてあった高校の制服を着用している。思った通り、こっちに来た時に着ていたのは制服だったようだ。
「手が空いたら着替えさせてあげるわね」
「お願いします…」
壬氏様のお屋敷に来るのは高順さんくらいだと言っていたので、今日くらいはこの格好でも問題ないだろう。
だけど早めに水蓮さんに着付けを習って1人で着られるようにしておかないと。
制服姿でうろついているのを見られたら、怪しまれてあらぬ疑いをかけられてしまうかもしれない。
朝食作りはすでに佳境に入っているようで、盛り付けと配膳の手伝いだけで終わってしまった。
明日からはもっと早く来れるようにしよう。
盛り付けたお皿をテーブルに並べていると、水蓮さんから声をかけられた。
「、坊ちゃんを起こしにいってくれるかしら」
「わかりました!」
ちゃんと水蓮さんの役に立たないと。そう思い張り切って壬氏様の部屋へと向かった。
屋敷の中は昨日一通り案内してもらって覚えている。
迷うことなく無事に部屋の前まで辿り着いた。
「おはようございます、壬氏様」
扉の前でそう声をかけるけれど、中からは何の返答もない。
まだ寝ているのだろうか。
「壬氏様」
先ほどよりも大きな声で問いかけても物音ひとつ聞こえない。
壬氏様、もしかして朝に弱いのだろうか?
「失礼しまーす…」
無遠慮だろうかとは思ったけれど起こしてきてと水蓮さんに頼まれた以上、手ぶらでは帰れない。
引きずってでも連れて行こうと、一言断って中へと足を踏み入れた。