第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
訓練の場には、容赦のない音が響いていた。
「っ……!」
ネロは地面に叩きつけられた。
息を切らしながら、顔を上げる。
目の前には、閻魔刀ではなく木刀を手にしたバージルが立っていた。
「立て」
冷徹な声が響く。ネロは拳を握りしめ、ゆっくりと立ち上がった。
「くっ……」
「構えろ」
バージルは一切容赦しなかった。
ネロがどれだけ疲れ果てようと、どれだけ傷つこうと、手加減はしない。
むしろ、手加減する方がネロを侮辱することになると分かっていた。かつて、自分も「母を守れなかった」という後悔を抱えて生きてきたからだ。
「次は受けきってみせろ」
そう言うと同時に、バージルの剣が再び襲いかかる。
ネロは必死でそれを受け止めるが、すぐに崩され、また地面に倒れ込む。
息が荒くなる。 体が悲鳴を上げる。だが、バージルは止まらない。
「まだだ」
「……くそっ!!」
ネロは歯を食いしばり、また立ち上がる。
──そしてその夜。
「バージル、いくらなんでもやりすぎでしょうが!!」
ビアンカの怒声が響く。
ボロボロになったネロの傷口に薬を塗りながら、彼女は怒りを隠そうともしなかった。さすがに骨を折るところまではしていないだろうが、まだ一桁の年齢の幼子に何という仕打ちなんだ。
「こんなの訓練じゃない……ただの拷問よ!」
バージルは腕を組んだまま、じっと彼女を見下ろす。
「甘やかせば、こいつは強くなれない」
「だからって……!」
「お前も分かっているはずだ、ビアンカ」
バージルは静かに言った。
「無力なままでは、何も守れない」
ビアンカの手が止まる。
「ネロはもう知ってしまった、力を持たなければ大切なものを奪われるということを」
バージルの目には、ネロを通してかつての自分が映っていた。
幼き日の後悔。
守れなかった母。
力を求め、すべてを捨てた少年の記憶。
「……それでも、ネロを潰してちゃ意味がないだろ」
ビアンカは小さく息を吐き、ネロを抱きしめた。「痛いよママ」と笑って見せるその幼い声に、胸が痛む。
「強くなる前に、体を壊してちゃ……」
「ネロは弱くない。……俺の子だ」
バージルはそれだけ言うと、踵を返して部屋を出た。