第18章 第2章 喪われる
魔界の深部へと続く道を、二人の影が駆ける。
バージルとネロ。(ダンテはヴィオラのおもりにて留守番)
しかし、魔界は彼らの進軍を許すほど甘くはなかった。
それは、一瞬の出来事だった。
暗闇の中、不意に閃いた影。
「——オヤジ!!」
ネロの叫びと共に、鋭い音が響く。
バージルの背後に迫るマンティコアの尾。
獲物を仕留めるために伸びる、猛毒の針。
だが、それはバージルに届くことはなかった。
「——チッ!」
ネロが反射的に右腕を前に出し、盾とする。
本来ならば、悪魔の力どころかダンテ渾身の突きすら難なく弾き返すその右腕。
しかし、針は貫通した。
灼けるような痛みと共に、深々と右腕を貫いたそれは、ネロの体内に猛毒を送り込んでいく。
「……クソッ……!!」
血が滴る。
悪魔の力を宿すはずの腕が、軋みながら痺れ、次第に動かなくなっていく。
このままでは、毒が全身に回る。
こういうバージルは頼りになる……悪い意味で。
それは、彼の冷酷で無慈悲な性格ゆえのあまりにも迅速すぎる判断スピードだった。
「……オヤジ?」
苦痛に歪むネロが、バージルの異様な気配に気づく。
——閻魔刀が抜かれた。
刃の冷たい光が、ネロの背筋に冷や汗を呼ぶ。
「待て、まさか……」
「毒が回る前に、切り落とす」
「ふざ……っ、やめ——」
ネロの言葉が終わるより早く、閻魔刀が振り下ろされた。
あっさりと閻魔刀がネロの右腕を断ち切る。
その瞬間、辺り一帯に鮮血が舞う。
「ぐ、ぁ……ッ!!」
崩れ落ちるネロの身体を、バージルが即座に抱え上げる。
このままでは、戦いを続けるどころではない。
ビアンカを助けるためには、ここで無理をするわけにはいかない。
「一旦、帰還する」
その言葉と同時に、バージルは再び人間界への道を斬り開いた。
魔界に残されたビアンカとの距離が、また遠のく。
だが、今はネロまで失うわけにはいかない。