第9章 少年は剣を取る(DMC4本編直前まで)
昼下がりのリビング。
ビアンカはキッチンで洗い物をしながら、時折振り返ってはソファに座るバージルと、その足元で遊ぶネロの様子を見守っていた。
「……?」
ふと、ネロの動きが止まる。
彼の視線は、バージルの膝元に置かれた一本の刀に釘付けになっていた。
「……ねえ、パパー」
「なんだ」
「これ、触ってもいい?」
ネロは興味津々といった様子で、バージルの閻魔刀に手を伸ばした。
小さな手が、鞘の表面を何度も撫でる。
バージルは、それを無言で見下ろした。
「……子供が触るものではない」
淡々とした声で言いながら、彼はすっと刀を持ち上げる。
ネロは「えー!」と頬を膨らませるが、バージルは表情一つ変えない。
「これは危険なものだ。興味本位で触るな」
「えー……でもカッコいいじゃん!」
「かっこよくても、危険なものは危険だ」
ネロは少し不満げに見上げたが、バージルが真剣な表情で言うものだから、それ以上は駄々をこねなかった。
そこへ、キッチンから声が飛んでくる。
「そうだよー、これホント怖い武器なんだよ!」
「?」
ネロとバージルが同時にビアンカの方を見る。
彼女は楽しげに笑いながら、布巾で皿の水滴を拭っていた。
「ママは何度パパにこれを突きつけられたか!」
「……」
バージルとネロの間に、微妙な沈黙が流れる。
「そうなの?」
ネロが驚いた顔で母親を見上げる。
「うんうん、パパが怖い夢でうなされてたから起こしてあげただけなのに、いきなりこれ向けられたんだ」
「えぇー!!」
「しかも二度三度どころじゃないからね! もー、何度殺されかけたことか!」
「えぇぇーー!!!」
ネロの目がキラキラと輝く。
「ママ、すごい!! なんで生きてるの!?」
「そりゃあ、ママがすごいからよ」
ビアンカは得意げに胸を張る。